第3章 着鎧甲冑ドラッヘンストライカー
第28話 雨季陸という男
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だが、そんな表情一つ一つが、結花にはたまらなく愛おしかった。
告白しよう、という時にそんな母性を刺激する顔を見せられたからか。彼女は考えるよりも早く、彼より前へ――横断歩道へと飛び出していた。
「結花?」
彼女らしくもない突飛な行動に、幼馴染は目を丸める。――そして。
「……陸! あのね、私ね!」
勇気を限界以上に搾り出そうと、彼女は両手で胸元を握り締め――想いのままに声を上げる。
「小さい頃から、ずっと、ずっとあなたが! すっ――」
そして己の枷を外した彼女が長年募らせてきた想いを全て、解き放とうとした――その瞬間。
「――おい、結花っ!」
「――えっ!?」
血相を変えた陸が、飛び込んできた。突然の展開に結花はまともに反応することすら叶わず、されるがままに突き飛ばされてしまう。
視界の先を、大型トラックが過ったのは――その直後だった。
「いたっ!」
陸に突き飛ばされるままに尻餅を付いた彼女は、一瞬だけ痛みに目を瞑り――すぐさま正面を見た。
――それは。想い人への告白に踏み切り、幸せな将来を夢見ていた少女の心を打ち砕くには、過ぎた威力だった。
うつ伏せに倒れたまま動かない幼馴染。いつも能天気に笑っていて、辛い表情など一度も見せてこなかった彼は――初めて。彼女の前で、苦しげな呻き声を上げていた。
「……あ」
余りのことに、結花はまともに言葉が出ない。それでもなんとか口を動かそうとする彼女の眼前には――
「……あ、ぁぅ、あ」
――鮮血に濡れた片足が、転がっていた。
その足が誰のものか。どれほどのものか。彼女は知っている。利き足であるあの黄金の左脚で、彼がどれほど多くの功績を打ち立ててきたか。
どれほど、みんなを元気付けたか。どれほど、自分の心を奪ったか。
「い、あぁあ、あぁあぁあ……」
彼女には、わかっていた。
だからこそ――無意識のうちに、己の心を砕いてしまったのだ。
自分が招いたことの大きさに、自分の全てが破壊される前に。
「ぁあぁあぁ、あぁあぁあァァァァッ!」
砕かれた心の嗚咽を、悲痛な叫びに変えて。
無傷であるはずの結花は、血に濡れたまま愛する男の胸を抱き、絶叫を上げる。発狂を回避するために本能が命じた、最後の防壁であった。
――この日。
かつて世界の陸上競技にその名を知らしめた雨季陸の存在は、スポーツ界から抹消されることとなる……。
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