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フルメタル・アクションヒーローズ
第27話 隼は、巣に還る
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先進国の中においても上流階級に位置し、やんごとなき身分である人々が暮らす街並みは、少年の記憶そのままの景観を保っていた。
 優雅な高級車が行き交うこの道を、少年はキャリーバッグを引いて歩み出す。――幼い頃の記憶と変わらない、青空を仰いで。

(仕方ないよな。命令だもんな)

 内心、毒づいているようで。少年の頬は、待ち望んできた瞬間を前にして歓喜の色を滲ませている。
 その気持ちを抑えんと、キャリーバッグの取っ手を握る手に力が入るが――収まる気配はない。

 ――やがて。ついに。

 最期の一瞬まで、家族との失われた時間を取り戻せ――と命じられた少年は、十一年の時を経て。
 橘花邸と称される、住宅街の中でも一際広大な豪邸の前に立った。

 すぐ目の前にある、インターホン。それに触れれば、長い旅が遂に終わる。
 そう実感した少年は――最初に掛けるべき言葉は何にしようかと散々に迷い。やがて、それすらも振り切り。

 迷う暇も惜しいと、指先を伸ばした。
 その手にはもう――躊躇いはない。

「――ただいま。父さん、母さん。……麗」

 この言葉だけが、少年の十一年の全てだった。雲無幾望の旅に幕を引き、橘花隼人の運命を変える、この一言が。

 少年の、旅を終えたのだ。

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