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フルメタル・アクションヒーローズ
第26話 自分だけに誇る「名誉」
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士さん……」

 昏睡状態の雲無をここまで連れてきたのは、間違いなく和士しかいない。だが、あの時の自分は過熱状態のただ中であり、スーツの熱も尋常ならざる強さだったはず。
 そんな焼きごてのようになってしまったスーツに触れれば、如何に着鎧甲冑といえど……。熱が本格化する前に気絶していたおかげで、少女を熱から守れたことを喜ぶべきか。大切な最終テスト要員であり、将来の義弟にもなり得る和士を、傷つけてしまったことを恥ずべきか。
 その双方に思い悩む彼を前に、和士は安心させるように語り掛けた。

「……己が身命を賭して、より多くの命を救うことを任務とす――だろ? お飾りの隊長だろうが新米だろうが、命張らなきゃヒーローの真似事も出来ないんだ。ちょっとは、先輩ヅラさせろよ」
「和士さん……」

 得意げにそう語る和士を前に、仏頂面のままだった雲無がようやくほくそ笑む。その様子を前に、ようやく彼の思考が平静を取り戻したのだと感づいた和士は、次の言葉を紡ぐ。

「『至高の超飛龍』――六十二号も、救芽井エレクトロニクスに提出してある。フェザーシステムの開発責任者のお墨付きでな」
「それじゃあ……!」
「……ああ。フェザーシステムは――完成した。それが、ついに証明されたんだ」

 その言葉は、雲無の表情を憑き物が落ちたような柔らかなものにさせる。今この瞬間、ようやく彼の苦闘が終わったのだと――和士は実感した。
 そんな少年に、かつて家族も故郷も失い、自分自身への誇り以外の全てを喪った親友の姿を重ねた彼は――気がつくと少年の手を握り、熱い雫を頬に伝わせていた。

「だから……いいんだよ。もう、いいんだ。死のうなんて、馬鹿なこと……考えなくたって、いいんだ……!」
「か、和士さん……」
「お前……言った、よな。自分だけに誇れる『名誉』があるなら……それでいいって」

 そして少年に痛みを与えぬよう、そっと――機械仕掛けの体を抱き締めた。失われて来た家族の温もりを、分け与えるかのように。
 初めはそれに戸惑っていた雲無自身も――冷たい機械になっても消えずに根付いていた、人肌を求める自分の「本心」を突き付けられ――唇を噛む。

「だったら……生きろよ……! 何もかも捨てても構わないから、生きろよ……! お前が消えたら――いなくなったら。お前だけの『名誉』は、一体誰に誇るんだ……!」
「……!」

 強く抱き締められない代わりに、大火傷を負っているはずの拳を、血が滴るほどに震わせる。そんな彼の熱が、冷たい機械を通して少年の胸に突き刺さる。

「……ねぇ、お父さん。あの子は、やっと……」

 彼らの様子を、背中越しに感じながら西条夏は廊下の天井を見上げた。壁一枚、扉一枚を隔てた向こうでは、一つの長い闘いが幕を下ろそうとしている。
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