第23話 橘花麗の戦い
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(――どうして、こんなことに……!)
目の前に突如訪れた絶対絶命の窮地に、麗は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。握り締めた拳からは、鮮血が滴り落ちていた。
慰霊碑の丘を二人で降りた和士と麗が、現場に居合わせたのは約三十分前。豪雨の影響で濁流と化した川の中で、岩にしがみつき助けを求める少女の叫びが二人に事態の重さを告げた。
――現場で右往左往していたスタッフを問い質したところ、グラビア撮影中に天候が急変し、川から引き返す前に彼女が流れのど真ん中で身動き出来なくなったらしい。しかも、その少女の正体は今をときめくトップアイドル「フェアリー・ユイユイ」だった。
すぐさま麗は現地の警察及びレスキュー隊に通報し、山を降りる途中だった両親にも状況を報告した。
だが現場はかなりの山奥であり、この豪雨のさなかでは容易にヘリで近づくことも叶わない。しかも、彼女が辛うじてしがみついている岩も、濁流の勢いに押されてぐらつき始めている。
事態は一刻を争う。和士は「他に助けになるアテがある」と言い残して現場を走り去ったが、何十分経っても戻ってくる気配がない。
「誰か……! 誰か、助けてぇっ! も、もう腕がっ……!」
「お、おい誰か早く助けに行けよ! ロープあんだろ、ロープ!」
「助けるって誰が!? 僕はゴメンですよ! あんな流れに飛び込んだら、ロープがあったってどうなるか!」
「じゃあどうすんだ! トップアイドルが事故死なんて、さいっあくのスキャンダルだぞ!」
だが、状況は待ってはくれない。岩にしがみついている少女は、両腕と声を震わせながら懸命に助けを求めている。
そんな彼女の窮地を前にしてもなお、スタッフは我が身可愛さゆえか救出への道を踏み出せずにいた。
「……ッ!」
救えるかも知れない命を前に、激しく口論するばかりで一歩も前へ進まない男達。そんな彼らの姿に、麗は――
『前へ踏み出すこの一歩に、強いも弱いもない。勇気があるかないか、それだけだ!』
――自らを虜にした男の言葉を、胸に抱いて。
「……いつまでオタオタしてんのよ、このグズ男共ォォォオッ!」
「ひ……!?」
半ばパニック状態のスタッフ一同を、その咆哮で黙らせた。一喝と称するには凶暴過ぎるその叫びに腰を抜かしたプロデューサーに歩み寄る麗は、女子とは思えない腕力で胸倉を掴み、その腕一本で強引に立ち上がらせる。
「……ロープならあるんでしょ? だったらさっさと用意なさい、あなた達が嫌と言うなら私が行きます」
「え……!? い、いや、そんな無茶な!」
「――はァ?」
「よ、用意します! お、おいロープだ! ロープを早く!」
「は、はいぃい!」
プロデューサーは腰を抜かした格好のままスタッフに指示を出す
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