第22話 雷雨が呼ぶ試練
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――!」
そして、和士の口から語られる緊急事態を前に――雲無は夏が反対の言葉を言い終えるよりも遥かに速く、乗機に向けて走り出していた。
「和士さん!」
「ああっ!」
「ちょっ――あなた達!」
「現場の要救助者は、僕達以上の危機に晒されています! 今は、それだけの理由で充分です!」
「くっ……!」
本来ならば、止めるべきだろう。模範的な行動を求められるテストパイロットが、無謀な出動をするべきではない。
だが――ここで出動を止めさせたとして、要救助者が死亡するようなことになれば本末転倒。加えて、後々正式にフェザーシステムの研究開発を公表した際に当時のことを洗い出され、バッシングを受ける可能性もある。
危険な賭けではあるが――それでも挑まざるを得ない状況になってしまったのだ。
(あともう少し……もう少しだったのに!)
あとほんのわずかなフライトで、雲無の半生を潰した苦闘は終わるはずだった。そこまで来たところへのこの事態に、夏は苦虫を噛み潰した表情で天を睨む。
「着鎧甲冑!」
「……着鎧甲冑!」
素早く操縦席に乗り込んだ雲無と和士は、内部に備え付けられた「腕輪型着鎧装置」を装着し、腕輪に音声を入力した。刹那、羽根をあしらったデザインの腕輪から、激しい光が迸る。
その光は粒子化されたスーツとして転送され、二人の体に纏わり付いていく。瞬く間に雲無は赤の、和士は深緑のヒーロースーツを着鎧するのだった。フェザーシステムにおける「基本形態」である。
『雲無』
「どうしました?」
『麗に会ったよ。隼司にも、うららさんにも』
「……そう、ですか」
出動を目前に控え、二機の「超飛龍の天馬」が滑走路の上に並ぶ。すると、進む道を正面に捉えた雲無に、隣の和士から通信が入ってきた。
そこから出た言葉に、雲無は微かに声色を震わせながらも――努めて事務的に答える。考えないように意識していることは、火を見るよりも明らかだった。
「さぁ、行きましょう和士さん。今はそんなこと――」
『――幽霊でも会いたい。あの子は、そう言っていた』
「……ッ!」
諭すように。響かせるように。和士は、厳かにそう告げた。誤魔化しようのない彼の言葉に、雲無は目を伏せ――通信で聞かれまいと、弱音を押し殺す。
(会いたいさ……会いたいよ……僕だって、本当は!)
その涙を、振り切るように。発進準備を終えた機体のエンジンに、火を付ける。
誰にも知られていない、知られる訳にはいかない本心を秘めて。雲無は、豪雨と荒風が渦巻く暗雲の空へと漕ぎ出して行った。
「フェザーシステム試験小隊、発進!」
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