第20話 雲無幾望の名を借りて
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見つめる。この先で祈りを捧げているあの少年は、どんな気持ちでこの景色を見ていたのだろうと――わかるはずもないことに思いを馳せて。
(やっとの思いで生き延びたのに……会おうと思えば会えるのに……残り少ない命を、このためだけに使い果たすなんて……。いいのかよ、それで……!)
◇
――その頃。
「じゃあ……また、来ます」
少年――雲無は、数多の霊の名を刻む石碑を見上げた後、踵を返す。名残を惜しむように横目で見遣る眼差しは、微かな憂いを帯びていた。
蝉の鳴き声。葉を撫でる風の音。鳥の囀り。自然の奏でる音楽だけが、その少年の帰路を彩っている。
だが、この屋久島の全てが大自然に包まれているわけではない。山道を降りた先には――この島で暮らす人々のためのアスファルトが敷かれていた。
日射しを受けたその周辺は噴き上がるような熱気に包まれており、視界が熱を帯びて歪んでいくのがわかる。
そのアスファルトを隔てた先にある、道無き道。そこから続いて行く秘密飛行場への道のりを目指して、彼がその人工の大地に足を踏み入れた時。
(……!)
微かなエンジン音が、雲無の聴覚に響き渡る。――もしこんなひと気のない場所を、独りで歩いているところを見られたら、怪しまれる可能性がある。
飛行場が外部に見つかる可能性は万に一つもあってはならない、と判断した雲無は咄嗟に木陰に身を潜めた。
やがて、彼の眼前を……一台のワゴンカーが通り過ぎて行く。その車はエンジンを噴かし、屋久島のアスファルトを走り抜けて行った。
(……!?)
一見、何の変哲もない普通の車なのだが――その後ろ姿を見送る雲無は思わず立ち上がり、暫し茫然と車が走り去る様を見つめていた。
車に不審なものを感じたわけではない。彼が注目していたのは――車内にいた人物。
後方の席から風景を眺めていた、一人の少女だった。
自分が至近距離で見知らぬ少年に見られていたことなど、知る由もない彼女は――自分を乗せた車が山を抜け、海が一望できる道に出た瞬間。ぱあっと明るい表情を見せた。
「わぁーっ! すっごい綺麗! まさに大自然って感じ!」
「ユイちゃん、あんまりはしゃぐと疲れちゃうよ。このあとドラマの撮影もあるし、夜には監督との打ち合わせもあるんだから!」
「えぇー……あたしあの監督やだなぁ、なんか目つきがイヤらしいもん。ねぇプロデューサーさん、夏休み中ずっとここにいようよぉ〜。どうせ二十日にはまたここでグラビア撮影でしょ?」
「ダメダメ、これも大切な仕事なんだから! ちょっとはトップアイドルとしての自覚を持たなきゃ!」
「ちぇ〜……」
だが、その表情はすぐに翳りを見せる。車を運転している眼鏡の男性の言葉に、少女は深く溜息を
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