第20話 雲無幾望の名を借りて
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うじて一命は取り留めた。だが、それは幼くして生身の人間としての尊厳を失ったことを意味していた。
手術から一年を経て、ようやく回復の兆しを見せた彼は己の状況を子供心に悟り、絶望に沈んだ。この身体で、家族のもとに帰れるはずがない、と。
この時すでに少年の身元が警視総監の長男・橘花隼人であることは判明していた。だが彼が家族との再会を絶望視している以上、安易に橘花家に帰すことは憚られた。
さらに警視総監の子息に延命のためとはいえ、改造手術を施したという事実も無視できるものではなかった。この件が公になれば警察の介入を受け、着鎧甲冑の開発どころではなくなってしまう。
そして――甲侍郎と西条博士は最終的に、橘花隼人が家族との再会を望む日が来るまで、その身柄を内密に保護するという決断を下した。そして、西条家の養子として生きることになった彼には、それまでの仮初めの名前が与えられたのだった。
――雲無幾望、という名を。
こうして橘花隼人という少年は、雲無幾望と名を変え、救芽井家と西条家の保護下でひっそりと生きていくこととなった。この保身とも取れる甲侍郎の決断が、研究員・古我知剣一の不信を煽り、徐々に後の「技術の解放を望む者達」事件へと発展していくのだが……それは別の話である。
ともあれ、改造電池人間という人ならざる者という身の上に苦心しつつも、屋久島の西条家で西条博士やその娘の西条夏と、それなりに平和な日々を送っていた雲無だったが――その胸に迸る電光と痛みは、常に彼に警告していた。
この命は、長くは続かない――と。
ゆえに彼は、迫る死に怯える日々の中で、一つの決意を固めたのだ。
この命が尽きる前に、一つでも多くの命を救うことで――自分という人間が、確かにこの世にいた証を刻むのだと。
そして、父親代わりだった西条博士が病死したのち――彼は救芽井エレクトロニクスの門を叩き、その社員となっていた姉代わりの夏と再会した。
その夏の口から、救芽井エレクトロニクス最大のスキャンダルである自分では、いくら活躍してもその功績が名声に結びつくことはない、と告げられる。
夏自身としては、雲無にヒーローを諦めさせるための方便だったのだが――雲無が、それで立ち止まることはなかった。
彼は己に自身の価値を証明するためにこそ、ヒーローを志したのである。自分だけの名誉を、自分だけに誇るために。
数年の時を経て再会した彼の、そんな愚直とも言える姿勢を目の当たりにした甲侍郎は――せめて、彼の願いを一つでも叶えさせるべく。ある一つの可能性を示した。
それが――フェザーシステムの実験小隊。
かくして甲侍郎推薦のもと、最年少テストパイロットとなった雲無は、そこで思わぬ特性
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