第18話 たった独りの実験小隊
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和士の任務は、フェザーシステムを制式採用するに当たって「万人に扱える性能に仕上がったか」をテストするための完成形に搭乗し、その成果を報告することにある。いわば、この実験小隊における「素人代表」なのだ。
エリートヒーローの登竜門であるヒルフェン・アカデミーの首席であり、新米ゆえおかしな癖もないと見込まれたからこそ、彼が新世代レスキューシステムであるフェザーシステムの最終テスト要員に選ばれたのである。
――だが、その役回りは多くの犠牲を払ってきた実験小隊の「いいとこ取り」にも等しい。その業の深さを知識として知っていながら、いざ現実として目の当たりにしてしまった和士は、思わず息を飲んでしまうのだった。
「……そのような顔をなさらないで下さい、伊葉さん。僕達はむしろ、あなたを歓迎しているのですよ。あなたがこの役目を買って出て下さらなければ、彼らの命も無駄になっていたかも知れないのです」
「雲無……」
「それに、フェザーシステムに触れていない人を想定した上で完成させた六十二号があるのですから。心配することはありません。及ばずながら、僕も全力でサポートしますから」
「……ああ、ありがとう」
その時、見兼ねたのかマスクを開いた雲無が苦笑いを浮かべ、和士の顔を覗き込んできた。実験への不安を少しでも払拭するためだろう。
露骨といえば露骨だが、それでも初任務早々に地獄絵図を見せられた和士としてはありがたいものであった。
「――あなたが三二一便事件の英雄にして、ヒルフェン・アカデミー首席の伊葉和士さんですね。此度は当プロジェクトにご協力頂き、ありがとうございます」
その時。二人の前に、白衣に身を包んだ若い女性が現れた。腰に届く艶やかな長髪をポニーテールで纏めたその女性は、知性を感じさせる眼鏡をクイッと指先で上げながら――恭しくお辞儀をする。
「あなたは……」
「申し遅れました。私は当プロジェクト責任者、西条夏と申します。先の大事件で華々しい活躍をされた英雄に来て頂けるとは、至極光栄ですわ」
「……いや、俺なんか……大したこと、ありませんから」
「そうですか。その謙虚さからも、あなたの善き人柄が伺えますね。――さ、こちらへ」
「……」
西条と名乗る彼女に導かれるまま、和士は歩みを進めていく。あの戦いの果てに別れた、かけがえのない友の影を憂いながら。
「じゃあ……夏先生。僕はメンテの方に向かいますね」
「ええ。今日のフライトはどうだった?」
「小回りは良くなったんですが、加速がやや犠牲になっている気がします。もう少しだけ、出力を高めてもいいかも知れません」
「あなたならそれでもいいかも知れないけど、あくまで最優先は安全性よ。いざという時に衝突を回避できる能力こそ優先されるべきだわ」
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