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フルメタル・アクションヒーローズ
第14話 「名誉」の代償
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 このような見た目でなくとも、その気勢だけで人を遠ざけてしまいそうな佇まいであった。

「まずは、命を賭して娘を……多くの人々を救ってくれたことに、父として警視総監として、例を申し上げたい。……ありがとう」
「私からも言わせて。和士……本当に、ありがとう」
「いえ、俺は……」
「――海原凪という少年にも、いつかそう伝えてくれ」
「……!」

 だが、そんな外見に反して、彼の口調は柔らかなものだった。報道規制されているはずの凪の名が出たことに、和士は思わず顔を上げる。

「隼人も――私の息子も生きていれば、君を慕っていただろう。あの子は、いつも言っていたからな。皆を守る、ヒーローのようになりたいと」
「うん……お兄ちゃんも、きっと和士のこと、気に入ってくれたよ」
「……そうですか。しかし私など、ヒーローと呼ばれる人々には遠く及びません。凪にも……」
「君自身がそう思うなら、その通りなのかも知れん。だが、君がいなければ娘は助からなかった。それだけは間違いないのだから――どうか、誇っていて欲しい。彼のためにも、君のためにもな」
「……ありがとうございます」

 苦笑いを浮かべつつ、和士は目を伏せる。そんな彼の様子を静かに見遣る隼司は、威厳に溢れた容姿とは裏腹な、穏やかな声色で語りかけてくる。

「……君の父とは、旧知でね。君と同じように私も度々、彼と面会していてな」
「えっ……?」
「彼は、涙ながらに喜んでいたよ。あの意固地で無愛想な息子が初めて、楽しそうに『友達』の話をしてくれたと」
「……」
「君の『友達』には……海原君には、彼も深く感謝していた。息子に笑顔をくれて、ありがとう、とな。――そんな彼がいて、君がいる。それが、この一件に奇跡を齎してくれたのだろう」

 そこまで語ると、隼司は腕時計を見遣り踵を返す。そんな父の様子を一瞥した麗は、名残惜しげに和士を見つめながら、その後に続いていく。

「さて。実は君に一目会いたいがために、仕事を抜け出してきたクチでな。そろそろ御暇せねばならん」
「また、ね……和士」
「ああ。――お元気で」

 去り行く彼らを身届けた和士は、再び視線を青空へと映し、独りごちる。

「……なぜ、俺なんだろうな。みんなを守ったヒーローは、お前なのに」

 そんな彼を見下ろす太陽は――この世界のどこかで旅に出ている、本当の英雄を見つめていた。
 小麦色に焼けた肌と、溌剌とした八重歯を持つ彼もまた。――帰る家も故郷も、帰りを待つ家族もいない、彼も、また。

「……へへ。こりゃ、いい釣り日和だべ」

 同じように――その輝きを見上げている。

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