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フルメタル・アクションヒーローズ
第14話 「名誉」の代償
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 最後に一瞬だけ。肩越しに、泣き崩れる少年の姿を見届けて。

(彼自身、それを理解していたからこそ――この男のヒーロー生命を生かしたのだろう。自分のエゴに他者を巻き込むことを、最後まで恐れていたこの伊葉和士ならば、自分自身も人々も守り抜く本当のヒーローになり得ると信じて……)

 ◇

 ――それから数ヶ月。晴れて卒業を迎え、ヒーローとしての一歩を踏み出した和士は今。
 揺るがぬ決意を宿した瞳で、自分に卒業証書を渡す久水茂を、射抜いている。

(……俺はもう、立ち止まりはしない。凪の戦いは正しかったのだと、俺自身が英雄になることで証明するためにも――最後の一瞬まで、俺は戦い続ける!)

 その瞳の色のまま、彼は踵を返して久水茂から視線を外す。そして自分を英雄視する全卒業生を見渡し、壇上から立ち去って行った。

(だって、凪がいてくれたからこそ、今の俺が在るのだから……!)

 誰にも知られることのない想いを溢れさせるように――その拳を握り締めて。

 ◇

 ――その後。式を終えた卒業生達は、ルーキーを迎えに現れた世界各国のヒーロー機関の使者に招かれ、それぞれの道へと歩み出して行く。
 トラックの荷台に載せられ、過酷な研修に臨む者。デビュー早々にVIP扱いを受け、リムジンで旅立って行く者。所属していたクラスによって格付けされていた卒業生達は、この時点からすでに扱いの差が現れていた。

「……」

 ――その一方。卒業生達の中でただ一人、海外のヒーロー機関に赴くことなく、救芽井エレクトロニクス日本支社の正社員として故国に居残ることになった和士は。
 同期達の旅立ちを一通り見送った後、一人静かに空を仰いでいた。平和を象徴するかの如く、青々と透き通る快晴の空を。

(……凪……)

 目に映る晴れやかな景色に、親友の底抜けの笑顔を重ねた時。彼の後ろに、二人の人影が現れた。

「……和士」
「麗、か」

 茶色が掛かった黒髪のセミロングに、透き通るような白い柔肌。お嬢様学校らしい純白の制服に袖を通した橘花麗の姿に、和士は僅か一瞬だけ見惚れていた。
 麗自身も――三二一便の件を経て、一皮も二皮も剥けた和士の面持ちに、熱を帯びた視線を送る。そんな二人の様子を、スーツに筋肉を隠した強面の男性が、交互に見遣っていた。

 アカデミーの中でも長身だった凪よりも、さらに頭一つ分ほど大きい彼は、値踏みするような視線を和士に送る。

「……君が伊葉和士君か。娘が、大変世話になっているな」
「あなたは……」
「申し遅れた。私は橘花隼司――麗の父だ」

 その実態は警視総監であり、麗の父でもある橘花隼司。そこいらのゴロツキなど足元にも及ばないほどの強面であり、全身から近寄り難い威圧感が噴出している
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