第14話 「名誉」の代償
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郷を救うための『名誉』が必要なんです! みなも村の名を世に響かせるための、名声がッ!」
その処分が下された直後。和士は床に頭を擦り付け、久水茂に直談判していた。しかし、スキンヘッドを煌めかせる彼の鋭い眼差しは、彼の懸命な訴えを聞いても揺らぐ気配を見せない。
「……その様子だと、何も聞いていないようだな」
「え……!?」
そして、和士の訴えを根底から覆すように。淡々と――真実を語る。
彼のふるさと――みなも村は。
すでに、全滅していたのだ。
東北の海の近くに築かれた、小さな村であるみなも村は――温暖化に煽りを受けた海面の上昇が影響し、徐々にその領域を侵されつつあった。
相次ぐ若者の疎開だけではなく、村の面積まで失われつつある中。他の村や町で生き抜く術を知らぬまま歳を取った村民達は、唯一村に残っていた若者である凪を外界へ逃がし、自分達は村と心中する決断に踏み切ったのである。
世間の誰にも、知られることなく。彼らは崖から海中へと消え行き――みなも村と共に、日本地図から姿を消し去ったのだ。
村を見放すことなく、故郷を愛し続けたただ一人の若者――凪だけを、この世に残して。
――そう。日本地図からみなも村が消えたのは、間違いなどではなかったのだ。
「そ、んな」
「彼は全てを喪った。帰る場所も、帰りを待つ人々も。だからこそ彼は、『名誉』を求めてアカデミーの門を叩いたのだ。自分自身を、みなも村とその村民が存在していた証とするために」
「凪……」
「だが、その『名誉』は世間に誇るためではない。自分自身に誇るため――いつの日か家族の元へと逝く時、胸を張って誇るための『名誉』なのだ」
「……!」
久水茂が語る、その背景に――和士は、自分自身が受けた言葉を思い返した。
『――おらは、おら自身に誇れるものが「名誉」だと思ってるだ。自分にすら誇れないものを、人に見せびらかせるわけがねぇべ』
『あの飛行機さ見捨てたら――おら、みんなのとこへ胸さ張って行けねぇだよ。助けることが罪なら、おらが背負うだ』
過去に裏打ちされた言葉を振り返り、和士はようやく悟る。凪は、亡き家族に顔向けできる自分であるための「名誉」を求めて戦ってきたのだと。
――だから彼は。自らの名声を投げ捨て、和士を救う道を選んだのだと。
(凪……凪、凪っ……!)
膝から崩れ落ち、涙ながらに親友の名を胸の内で呼び続ける和士。そんな彼の様子を一瞥する久水茂は、踵を返すと話は終わったと言わんばかりに立ち去って行った。
(誰かを救うために己を削り、それを信念とする――か。やはり、このような人種はヒーローには向かんな。己を傷付けるばかりでは、いつか倒れる。そうなれば、大切な誰かを守り抜くことはできん)
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