第13話 願いは一つ、蒼い海
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憎しみをぶつけるように、和士は両手の拳を機材に叩きつける。だが、それで状況が好転するわけではない。
そして――ついに。
「キャアァアア! み、水、水がぁあぁあ!」
「出してくれ! 助けてくれぇえ! 出してぇえぇえッ!」
水圧によりひしゃげた部分から、海水が容赦無く機内に流れ込んでくる。その濁流に慄く人々の悲鳴が、波長となって凪達に轟いた。
(父さん、母さん……お兄ちゃんっ……和士っ!)
声にならない、麗の叫びも添えて。
「……ッ!」
その阿鼻叫喚の嵐を聞いた彼の胸中に――ある記憶が蘇る。
波に飲まれ、消えゆく人々。その中にいた、彼の――
「――ぐぁぉあぁあぉあぁあぁあッ!」
そこからの彼は、もはや人ではなく。獰猛な獣の眼で、立ちはだかる苦難を射抜いていた。慟哭のような叫びと共に――水流ジェットが唸りを上げる。
――それはまるで、断末魔のように。
後先のことなど、まるで考えない水流ジェットの全力噴射。自分が離脱するための残量さえ無視した、その一点集中の加速は――闇の中に消えゆくはずだった五百三十人の運命に、転機を齎した。
「わぁあぁあ! な、なんだよぉ! どうなってんだ!」
「お母さぁあん! 死にたくないよぉおぉお!」
浸水により腰まで浸され、迫る溺死の運命に誰もが慄いていた時。突如機内が激しく揺れ、上方に向かって突き進んでいく。
その物理法則に抗った現象と衝撃により、人々のパニックはさらに加速していった。騒ぎ立てることなく、静かに祈りを捧げていた麗も、思わず顔を上げる。
「え……!」
その時には、もう。
目に映る景色は、闇の中ではなくなっていた。
「へ、へへ……おっとう、おら、やっと……」
三二一便の海面浮上。その瞬間を見届けた少年は、バイザーの向こうに広がる水飛沫と波紋を見つめ――穏やかな笑みを浮かべ、瞼を閉じた。
『三二一便発見! 機内に多数の生存者を発見!』
『機内はかなり浸水されているようだ……急げ!』
一方。
天を衝く水飛沫を上げ、海面まで突き上げられた三二一便の乗員乗客を出迎えたのは――眩い証明で自分達を照らす、無数の救助艇とヘリ部隊だった。
彼らは三二一便の機影を発見するや否や、怒涛の勢いでこの場に駆けつけ、迅速な救助活動を開始したのだ。ようやく助けが来たのだと理解した人々は、歓喜の涙をその頬に伝わせ、泣き崩れていく。
「おい! 警視総監の御息女がおられたぞ!」
「麗お嬢様、よくぞご無事で!」
救助隊にはすでに麗の情報が伝わっていたらしく――水浸しになった彼女の姿を発見した救助隊員達は、優先的に彼女の側に駆けつける。
だが――麗はそこから動くことなく。割れた窓か
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