第12話 伊葉和士の戦い
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機体のシルエットが、海底という永遠の闇に飲まれようとしていた。
『和士くん、おらを出して! 助けが来るまで、「救済の超水龍」のジェット推力で機体さ押し上げるだ!』
「なんだって!? 無茶だ! いくら『救済の超水龍』のパワーが凄いったって、限度がある! いくら浮力もあるからって、あんな大きなモノ……!」
『やるしかねぇんだ! 和士くんッ!』
この押し問答が続いている間にも、機体は下へ下へと引き摺り込まれている。このままではやがて、水圧で機体がひしゃげ、そこから浸水し……。
「――すまん、海原ッ!」
断腸の思い。その苦みを噛み締めながら。和士は赤塗りのレバーに手を掛ける。
『……任せてけろ、和士くん』
だが、凪はそんな彼の冷静さを欠いた行為を、咎めることなく。シールドで防護されたマスクの位置を手で直し――眼前に広がる夜の海に視線を移す。
一瞬で視界を埋め尽くす闇。その暗黒に包まれながらも彼は――恐れることなく水を蹴り、前方に直進して行った。
「増加装甲、発射ァァ!」
その様を見届けた和士の手で、青い二本目のレバーが引かれる。打ち出されたメタリックブルーのプロテクターが、次々と「救済の超水龍」の青いヒーロースーツに張り付いて行った。
『Setup!! DolphinForm!!』
彼の全身に纏わり付いていく鎧。それが完成形へと達した瞬間、電子音声が二段着鎧の完了を宣言した。
その感覚を確かめるように両腕を振るった後――凪は水流ジェットの勢いを得て、さらに三二一便に猛接近していく。
彼の勇姿は――窓から海中の闇を目の当たりにし、絶望していた人々の眼にも焼き付いていた。
「おい、あれ見ろ! もしかして着鎧甲冑じゃないか!?」
「助けに来てくれたの!?」
「おぉぉおい! ここだぁあぁあ!」
窓一枚に隔てられ、命を繋いでいる人々は暗闇の中で目を光らせる「救済の超水龍」の姿を目撃し、口々に叫ぶ。
このスーツが民衆の目に触れたのはこれが初めてだったのだが――誰一人、そんなことを気にしている気配はない。皆、助かることだけに必死なのだ。
(あ、あれ、は……!)
絶望だけに支配されかけていた闇の中に、差し込まれた一筋の光明。その輝きが照らし出す「潜行形態」のシルエットに――橘花麗は目を奪われる。
そして――兄と同じ運命を辿ろうとしていたこの一瞬を、変えようとするその姿に――あの少年の面影を重ねていた。
(来て、くれたの……!? 和士!)
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