第4話 海原凪の真価
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がたい光景であった。この急流から身一つで子供達を救って見せたことだけではない。
彼は激しい流れの中で、数十メートルの距離を、人二人を抱えて泳ぎ切ったのだ。それも、一分も経たないうちに。
その常軌を逸した凪の行動に、和士は言葉を失い――両膝をつく。完膚なきまでに打ちのめされた敗北感と、子供達が無事なことへの安堵が、同時に降りかかったのだ。
「あ、あぁあ……よかった、よかった……!」
「……」
隣で号泣している女性を一瞥し、和士は子供達を桟橋に上げている凪に視線を移す。少しも息を切らしていない彼は、子供達の無事を確認すると、元通りの無邪気な笑みを浮かべていた。
(なんて、無茶なヤツだ。こんな急流に飛び込むなんて――)
そんな彼を見やる和士は、そこまで考えたところで首を横に振る。
(――いや、違う。あいつはあんなにも余裕そうに、あの子達を救って見せた。少なくともあいつにとっては……無茶じゃなかったんだ)
勇気と、無謀は違う。その言葉が意味するものを振り返り、和士は凪が見せた、あの凛々しい素顔を思い返した。
(……俺がぐだぐだと悩んでいる間に、あいつは……何もかも解決してしまった。迅速な救出活動。レスキューヒーローに何より必要なそれを、あいつは持っていて……俺には、それがなかった)
そして――子供達を背負って歩いてくる凪を、和士は……ため息混じりの笑顔で出迎えた。
(だから、あいつが首席で――俺が、次席だったんだ……)
「ああ、ありがとうございます! ありがとうございますっ! なんとお礼を申し上げれば……!」
「いんや、気にすることねぇべ。それよりこの子達、かなり水さ飲んでるだ。早く病院に連れてかねぇと」
「あっ……そ、そうですね、わかりました!」
意識はあるものの、子供も少女もかなり激しく咳き込んでいる。病院に連れて行かなくては、どうなるかわからない。
女性は言うが早いか、携帯を取り出して通報していた。
「さてと。おら達も、もう行かねぇと。急がなきゃ遅刻だべ」
「……ああ、そうだな」
「あっ! せっかくの制服が泥塗れになっちまっただ! 参っただなぁ、今日は新入生代表の挨拶もあんのに……」
「……」
淀んだ急流に飛び込んだ凪の白い制服は、泥水に塗れて灰色に変色してしまっている。新入生代表として挨拶することになっている彼が、こんな格好で式に出れば間違いなくアカデミーの評価に響くことになるだろう。
彼は後進の模範となる一期生代表の、首席なのだから。
それを懸念した和士は、狼狽える凪を暫し静かに見つめ、目を伏せた後――意を決したように顔を上げた。
「……向こうに着いたら、俺の制服と交換するぞ。お前にはちょっとキツいかも知れないが、我慢しろ
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