第4話 海原凪の真価
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!? お願いします、助けてください! うちの子ばかりか、助けようとしてくださったお嬢さんまで……!」
「あ、ああ……」
窮地に陥った市民。それを救うヒーロー。父の汚名を払拭し、名誉を勝ち取るまたとない機会。その千載一遇のチャンスが、和士の前に現れる。
だが――我が子を想い、泣き縋る女性から目を逸らす彼は、沈痛な面持ちで事態を見つめていた。やがて彼はその表情のまま、空を仰いだ。
とうとう――雨が降り出した。
この状況から子供も少女も助けるなら、ロープか何かで体を固定しながら川に入るのが定石。だが入学式に向かう道中で、そんなものを持ち合わせているはずもない。
レスキューヒーローを呼ぶ手もあるが、今にも子供達は流されようとしている。通報したところで、到底間に合うとは思えない。
小さな子供を胸に抱き、少女は懸命に橋の支柱にしがみついている。だが、女子供の力で抗えるほど、水の力は生易しくはない。すぐに振りほどかれ、流されてしまうだろう。
(どうする、どうする! どうしたら!)
彼の脳内に、自分が飛び込むという選択肢は初めから用意されていない。そんなことをしたところで、少女の二の舞になることは目に見えているからだ。
勇敢と無謀は違う。エリートとして教養を積んできた彼は、それを前提として物事を判断している。
だからこそ。
驚愕したのだ。
「――兄ちゃん、ちょっと頼むだ」
「え、あっ……おい!?」
寸分の迷いもなく、急流に飛び込む凪の姿。今までとは別人のような、凛々しさを帯びた、その真剣な横顔に。
「無茶な! 死ぬぞッ!」
背負っていた魚入り木箱を和士に託し、流れるように橋から飛び込んで行った凪。その背に向け、動けないままでいた少年は悲痛な声色で叫ぶ。
この急流に体一つで飛び込んで、ただで済むはずがない。間違いなく、川に流される。
一瞬のうちに、雨水で濁った川の中へと消えた凪。その様子を目撃してしまった和士は、見ていられないと言わんばかりに目を伏せた。
川の流れは、雨を浴びてさらに激しさを増して行く。やがて――その勢いは高波となり、子供達に覆い被さっていった。
「ぼうやぁあぁあ!」
「ち、ちくしょうッ……!」
消えていく命。轟く慟哭。それを見ていることしかできない自分を嘆き、和士は拳を握りしめる。その中から、鮮血が滲むほどまでに。
――だが。その瞬間は、子供達の最期にはならなかった。
「……ッ!?」
「う、うそ……ぼうや、ぼうや!?」
子供達が捕まっていた支柱から、数十メートル離れた桟橋。荒波の中からそこに現れた凪は――自らの両腕に、子供達をまとめて抱えていた。
(バ、バカな! あいつ、あの一瞬で……!?)
信じ
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