第2話 ヒルフェン・アカデミー主席、海原凪
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「いやぁ。おら、試験さ受けて合格したんはいいんだども、合格資料ってのがどこにあんのかわかんねぇんだべ。周りに聞いても、答えてくんねえし。おめさん、合格資料持ってるべ? どこで貰えるか、教えてくんろ!」
「は、はぁ? 合格? お前がか!?」
鬱陶しげに対応していた和士は、自分を見下ろす少年から出てきた言葉に目を剥き――再びよろけてしまう。これ以上ショックなことが起きれば、倒れてしまいそうだ。
(こんな奴が合格者だって!? 冗談じゃないぞ、こんなカッペが俺の同期だなんて!)
「な、なぁおねげぇだ。おらぁ、一生懸命勉強して、やっとここさ来ただ。手ぶらじゃ帰れねぇべよ」
長身の少年は、その体格に見合わない態度で頼み込んでくる。そんな彼の様子を見遣り、和士は混乱しながらもなんとか思考を巡らせた。
(……と、とにかくこいつが合格者だというなら、さっさと資料を持たせて帰らせるしかない。こんな奴が栄えある一期生だなんて周りに知れ渡る前に、手を打たねば!)
放っておけば、この少年は同じことを他の誰かに聞くために、アカデミー中をうろつくことになる。そうなれば、今日集まった受験者全員が知ることになるだろう。
――こんな田舎者が、自分達を蹴落としてヒーロー候補になった一期生なのだと。
そんなことになれば、アカデミーの最初の生徒となる自分達一期生の威厳が完全に失われる。まだ全員には知れ渡ってはいないであろう今なら、対処は可能。
「……来い!」
「うわっ!?」
短い時間でそう考えついた和士は、口で道案内する暇も惜しむように少年の手を引き、来た道を引き返していく。首席を飾った海原凪という男のことを、一時後回しにして。
人混みを掻き分けながら、強引に少年を手を引っ張る和士は、人目を憚るように少年を校舎前に連れ込んで行く。天を衝くように聳え立つ校舎を見上げ、少年は嘆息した。
「はぇー……すげぇんだなぁ。こったら高いとこに、事務室さあるだか?」
「ここの四十五階だ。……エレベーターの使い方くらいは知ってるよな?」
「へへへ、おら、それならわかるべ。ボタンをピッて押したら、ぐい〜んってあがるんだべな。おらぁ、こう見えてなかなか都会慣れしてっからな」
「都会慣れとかじゃなくて常識だからなコレ! ……はぁ、なんでこんな奴が俺の同期に……。頼むから、変な騒ぎは起こさないでくれよ?」
「んだ! 任せてけろ!」
人懐っこい笑顔で、小麦色の少年はそう宣言してみせたが――和士は全く当てにならない、と深くため息をつくのだった。
「いやぁ、持つべきものは同期だべ! おかげで、村のみんなにいい土産話を持って帰れるだよ! 本当にあんがとな!」
「いいよそんなの。わかったから、とっとと行け。そして二度と関わるな」
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