最終話 三年後の生
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ままの彼を受け入れるように。
「……!」
そんな彼女の背を追うように、我に返った樋稟も駆け出して行く。
その胸には今、伊葉和雅の言葉が渦巻いていた。
『いつか彼と再会するその時に、心からの笑顔を向けられれば……きっと彼も、君を信じて良かったと思うだろう』
(心からの、笑顔を……)
今の自分に、出来るだろうか。彼女のように笑ってあげられるのだろうか。
こんなに、傷付いた姿で帰って来たというのに。こんなに、こんなに辛いのに。胸が、苦しいのに。
そんな恐れを胸に滲ませたまま、樋稟は顔を上げる。
すると、そこには胸に飛び込んでいく賀織の姿と――
(……っ!)
――少年の頃のような。底抜けに明るい笑顔でそれを受け止める、彼の姿があった。
初めてこの町で出会った頃に見た、あどけない表情。
初めて出会った、男の子の顔。
初めて好きになった、彼の笑顔。
それが、自分にも向けられた瞬間。
「へへ……ただいま、救芽井」
「……おかえり、なさい」
あれほどまでに自分を苦しめていた恐れが、嘘のように吹き飛んで行く。靄が晴れ、太陽が差し込んでくるかのように。
そして――それに導かれた彼女は。
「おかえり、なさい……!」
恐れの先にある嬉しさを引き出し――心からの笑顔を浮かべて、彼の帰りを喜んでいた。淀みを洗い流すかのような、雫を頬に伝わせて。
そんな彼女を見つめる彼も、賀織も。昔に戻ったように、笑い合っている。
苦しい戦いも、楽しい時間も共有してきた――あの日々のように。
いつまでも変わらない太陽も。青空も。町並みも。そんな彼らを、穏やかに包み続けていた。
――そして。
さらに三年の時を経た、二◯三七年十二月二十二日。
一煉寺龍太は、一人の父となる。
それは救芽井樋稟と出会い、全てが始まったあの日から――十年が経つ頃のことであった。
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