最終話 三年後の生
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を利用しようとはしてるけれど、私達と事を構えようとまでは考えていないわ。……もう、彼を好き放題にはさせない」
「……そうやな。そのための、アタシらなんやし」
グレートイスカンダルの寝顔を見つめながら、賀織は静かに――力強く呟いた。彼女の脳裏にも、三年前に別れた「彼」の姿が色濃く焼き付いている。
高校卒業から三年。賀織も樋稟も、彼のことを忘れた日はなかった。それは恐らく、彼女達だけではないだろう。
彼と関わった人々は皆、その姿を胸に刻み――この時代を生きている。多くのヒーローが息づく、この新時代を。
「出来れば、みんなで一緒に出迎えてあげたかったね」
「ま、しゃあないやろ。梢先輩は茂さんと一緒に、ドイツ支社で着鎧甲冑の配備数増加の交渉。鮎美先生はロシアで寒冷地仕様の装甲の開発。鮎子はアメリカ本社で飛行ユニットの自律化の研究。……着鎧甲冑部で日本におるの、アタシら二人だけなんやもんなぁ」
「そうだね……。みんな、それぞれの場所で頑張ってるんだ……」
樋稟は胸から一枚の写真を引き抜き、懐かしむように写された光景を見つめる。それは着鎧甲冑部の部室に飾られたものと、同じ瞬間を収めていた。
その中で大らかな笑みを浮かべている少年の姿が、彼女の胸を締め付けている。
「……ねぇ、賀織。本当によかったの? 空港で出迎えなくて……」
「あいつは騒がしいとこは好きやないけんなぁ。どうせ出迎えるんやったら、この町で出迎えてやりたいんや。あいつが好きな、この町で」
「……もう、敵わないなぁ。賀織には」
その遠因である賀織は、遠い目で子供達を見つめながら微笑みを浮かべていた。相手のことなら何でも知っている――と主張するかのような佇まいに、樋稟は言い知れぬ敗北感を覚えていた。
心から彼を信じ、待ち続けることができる「妻」の姿。
自分に、そんな真似できただろうか。そう自問自答する彼女の思考を――グレートイスカンダルの鳴き声が断ち切った。
「……ほらっ」
「……!」
何に反応して、この猫が目を覚ましたのか。その原因を探る前に、賀織は視線をとある方向へ移した。
曲がり角から、公園に繋がる道。そこに現れた、一人の青年。
(……えっ!? あ、あれは……!)
艶やかな黒の長髪を靡かせ、キャリーバッグを引いて歩く隻腕の男――。
あまりと言えばあまりにも異様と言えるその姿に、樋稟は思わず固まってしまっていた。
しかし――賀織は違う。
「龍太ぁっ!」
一目見るだけで、その青年の正体を見抜いた彼女は猫を抱いて立ち上がり――彼に向かい、満面の笑みで駆け寄って行く。
何があったのか詮索する素振りも見せず。彼に気を使わせるような表情など見せず。
ただ、あるが
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