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フルメタル・アクションヒーローズ
第242話 「ありがとう」
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「……わかった。必ず彼女に渡しておくよ。――それじゃ、元気でね」
「ああ。いつかまた、な」

 そして、小突くように拳を合わせて――龍太は、踵を返して歩き出す。振り返ることも立ち止まることもなく……真っ直ぐに、自分を故国へ運ぶ旅客機を目指した。

 そんな彼の背中を見送り――剣一は、文字通りに胸を撫で下ろす。
 ……今の彼は、不幸なんかじゃない。彼自身の笑顔が、それを教えてくれたのだと。

 ――龍太を乗せた旅客機は、他の便と変わらない速度で滑走路を走り出し――順調に空へと向かいつつある。
 じきに、肉眼では見えない高さまで飛び去って行くだろう。

 剣一は舞い上がって行く機体を、穏やかな微笑みで見上げていた。窓から自分を見下ろす彼の笑顔が、僅かに――見えた気がしていたからだ。

 その頃――彼の感じた通り、龍太は窓から自分を見送る旧友に向け、子供のような笑みを浮かべていた。まるでこの瞬間だけ、遠い日の時代へ遡っているかのように。

(じゃあな、剣一。……しかしあいつ、最後まで見送りに来なかったな)

 だが、ほんの僅か――その笑みには、名残惜しさが残されていた。気にしないようにすればするほど、自分の目に映らない戦友の姿が脳裏を過る。
 激務が続いている以上来れないのは当然だし、「今さら見送りなんていらないわよ、私は寂しくなんてないんだから!」などと言われてしまっては、どうしようもないのだが。

(……ま、しょうがないか。心配だから帰る前に一度、顔を見ておきたかったんだが……悠がいることだし、気を揉むだけ無駄だろ――ん?)

 しかし――その時。

 剣一のように飛行機を見送る人々の中に、やたら激しく動く二人の人影が見えた。
 彼らは人だかりを掻き分け、少しでも飛行機に近づこうとするかのように突き進む。警備員に止められるギリギリまで接近した彼らは――そこまで来てようやく、進撃を止めるのだった。

 その近くにいた剣一は、周囲の注目を集める二人組の姿を目撃し、目を丸くする。
 彼らは、保安官のユニフォームを纏っていたのだ。

「……リュウ、タァァアアアァアッ!」

 その内の一人――ジェナ・ライアンは、喉から先にある身体の芯から、自身の命を噴き出すように叫ぶ。
 周囲の人間が軒並み耳を塞いでうずくまる中――彼女のそばに立っていた真壁悠は、一切表情を揺るがすことなく、その背中を見守っていた。
 彼には、わかっていたのだ。この少女が、自らの殻を破る行動を起こそうとしていることが。

 命を削るような叫びを轟かせ、肩で息をするほどに疲弊仕切った彼女だったが――すでにかなりの高度に達していた飛行機には届くはずもなく。その中にいる龍太も、自分の名を呼ぶ声を聞き取ることは出来なかった。

 
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