第242話 「ありがとう」
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つか――また会えるさ」
ダスカリアン国際空港。
そのロビー内で、二人の日本人が言葉を交わしている。
一煉寺龍太と、古我知剣一。この国の未来のために戦い続けてきた彼らは今、別れの時を迎えようとしていた。
「それに、今は悠もいる。あいつがいれば、俺がいなくても城下町は安泰だろうよ。ジェナのことも、守ってくれるさ」
「随分と信頼してるんだね、彼のこと」
「一度戦えば、な」
「……僕は、戦っても彼の心は掴めなかったよ」
「だったら他のやり方で付き合ってみろよ。一晩中飲んで騒いで殴り合う、とかな」
「ハハハ、結局戦ってるじゃないか」
笑い合う二人は今、同じ目線と同じ言葉で語り合っている。かつては大人と子供だった、二人が。
その変化を痛感していた剣一は、嬉しさと寂しさを併せた複雑な表情で、龍太の横顔を見つめていた。
(出会った頃は……考えもしなかった。君と、こうして語らうなんて)
松霧町という小さな町の中で暮らしていた平凡な少年は、数々の死闘を経て一国を救うヒーローへと成長した。
彼の人生がこのようになったことは――彼にとって、幸せだったのだろうか。彼が、本当に望んだ未来だったのだろうか。
失われた左腕を見遣る度に、彼はその疑念に苛まれていた。
しかし――少なくとも、彼の目に映る青年の横顔は。
希望に溢れている。自分に絶望した人間が、見せる顔ではない。
(……君にとって、これでよかったのかは……わからない。だけど、女王陛下も元帥も君を信じたんだ。僕も、君を信じてみるよ)
それだけが、剣一にとっては唯一の救いだった。
「……あ、そうそう。ジェリバン元帥が言ってたよ。奥さんと一緒にダスカリアンに住む気はないか? ってさ」
「俺が『帰る場所』は、あの町だけさ」
「――そうだったね」
どうやら、三年経っても彼の想いに揺らぎはないらしい。ダウゥ女王にとっては、分が悪い勝負だったようだ。
「あと……これ。ジェナの奴に、渡してやってくれ」
「これは……」
剣一が、龍太の気持ちを確かめた直後。彼は自身の長髪を纏めていた赤い鉢巻を、するりと解いてしまった。
艶やかな黒髪が、その弾みで鮮やかに靡く。男の髪とは思えないその動きに、剣一は思わず目を奪われていた。
そんな彼の意識を、目の前に差し出された鉢巻の存在が呼び戻す。
「……いいのかい?」
「今の俺よりあいつの方が、お守りは必要だからな。救芽井に貰った元気、あいつにも分けてやりたいんだ」
「龍太君……」
「それに、役目を終えた俺に出来ることと言えば、それくらいだし」
出来ることはやり切った。そう語るように、彼の表情は明るい。
そんな彼の姿に安堵を覚え、剣一は鉢巻を受け取るのだった。
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