第238話 一角と双角
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ェナの叫びが、砂塵と共に風に運ばれて行く。
唸りを上げて、男に迫る強力な炎。だが、それだけでこの男が倒れるはずはないと、龍太は確信していた。
彼はジェナに飛び火しないよう、彼女を担ぎ上げて距離を取る。その直後に振り返る頃には、すでに放射は終わっていた。
辺りはさらに焼き尽くされ、辛うじて形が残っていた廃屋も、完全に焼失しまっている。その痛ましさに目を向けることなく、ルナイガンは高らかに笑っていた。
「消し炭に……なりやがった! ハッ……ハハハハハ! 買った! 俺達特捜隊の勝利だッ!」
銃口を空に翳し、ルナイガンは勝鬨を上げる。それに歓声で応える兵士はいなかったが、彼は構わず夜空を見上げて狂喜していた。
「あ、あ……なんてことを……! ルナイガン中尉ッ!」
「……く、くく。これで邪魔者はいなくなった。――この際だ、不要なウジ虫共も纏めて焼き払ってしまうか」
「なっ……!? 正気なの!?」
それを目の当たりにしたジェナはルナイガンの行いに憤る――が、それすら意に介さない狂気の男は、火炎放射器の銃口を龍太達に向ける。
いくらいがみ合っていても、同じ敵と戦う同志ではあるはず。ジェナが微かに抱いていたその淡い期待を、打ち砕く行為であった。
火炎放射器の銃口を向け、再び敵と認識した相手ににじり寄るルナイガン。その姿にたじろぐジェナに対し、龍太はあくまで冷静に――冷ややかなほど冷静に、ルナイガンと視線を交わしていた。
彼には、薄々わかっていたのだろう。
「纏めて焼却、焼却、しょうきゃッ……あッ……!?」
炎をかわしていたあの男が、背後からの一撃でルナイガンを昏倒させてしまう結末が。
だからこそ、ジェナだけは守らなくてはならない。それが、彼女を担いで距離を取った最大の理由であった。
(あの瞬間……奴は瞬速のジャンプで火炎放射をかわし、死角に入ることでルナイガン中尉の後ろを取っていた。やはり、相当出来る奴らしいな)
一角の兜を持つこの男の力。
それを垣間見た龍太は、眼前で起きた一瞬の出来事に翻弄され、驚きの表情を浮かべるジェナの隣に立ち――
「噂より随分動けるじゃねーか、『鉄拳兵士』さんよ」
「……」
――真打ち同士の一騎打ちを、始めようとしていた。
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