第234話 伊葉和雅の償い
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、猛獣の如き殺気が漂い――竜巻のように唸りを上げている。
しかし、男は自身に覆い被さる殺気を感知した上で、眉一つ動かすことなく歩みを進めていた。
黒いブーツ。真紅のカーゴパンツ。漆黒のポリスジャケット。それと同色のフィンガーレスグローブ。
男が身に纏うその服装を目にした殺気の主達は、さらに威圧感を噴き出していきり立つ。
「おい……あいつ」
「ああ、間違いねぇ。例の『赤い悪魔』だ」
加えて、腰に届く黒い長髪を赤い鉢巻で一束に纏めたその髪型と、左目の傷――そして肩から先がない左腕という特徴が、男達の緊張をより強く煽っていた。
「ち、ちくしょう……! もうここを嗅ぎつけやがったのかよ!」
「どうする……!?」
「やるしかねぇ。いくら『赤い悪魔』が相手だろうと、こっちは十人いるんだ」
ダスカリアン王国城下町に駐在する、保安官の制服。それを目の当たりにしてそこまで戦意を膨れ上がらせる勢力は、現状では一つしかない。
男がそれを意に介さずに進み続けたその時、ついに状況が動き出す。
周囲の家屋に潜んでいた殺気の主達――あらゆる武装で身を包んだ男達が、保安官の男を一瞬で包囲したのだ。
計算され尽くした、無駄のない陣形。殺気さえ隠せていれば、完全に保安官の虚を突くことも出来ただろう。
だが、この男には一寸の揺らぎもない。
焦ることも昂ぶることもなく、ただ飄々とした面持ちで、自身を囲む武装集団を見遣る。
「城下町郊外にある、七年前に過疎化して消滅した村の跡地――にしては、随分とおっかないお兄さん達がたむろしてんだな」
保安官は懐から取り出した書類に目を通すと、男達の方には見向きもせずに口を開く。
その態度は、ただでさえいきり立っていた男達をさらに挑発する結果を招いていた。
「てめぇ……この状況わかってんのか」
「生きて報告に戻れるとでも思ってんのかよ」
しかし、その恫喝に保安官が耳を貸す気配はない。あくまで呑気な表情のまま、手の中にある書類に視線を集中させていた。
それから程なくして、彼は書類を懐にしまい――視線を男達に戻す。
「最近この辺りで、武器密売シンジケートの取引が行われてるって情報があってな。もしよかったら、お話をお伺いしたいんだが――」
「――てめぇらにくれる情報なんぞねぇよ!」
その瞬間、男達のうちの一人が引き金を引いた。銃口から火が吹き、乾いた銃声が辺りに響き渡る。
本来ならば、その一発だけで終わるはずだった。――しかし、この男はその限りではない。
「ち、ちいッ!」
「――いくらなんでもせっかちなんじゃない? 俺はお兄さん達がシンジケートの構成員と睨んでる、なんて一言も言ってないんだが?」
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