第233話 救芽井樋稟の想い
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そのスポンサーとして、久水財閥を纏め上げ――妹の久水梢も、その秘書として多忙な日々を送っている。
彼らは、あの死闘を乗り越えてからも……休むことなく戦い続けているのだ。
彼らだけではない。
かつては平和になった松霧町で穏やかに暮らしていた四郷姉妹も、現在では救芽井エレクトロニクスの専属研究員として、着鎧甲冑の研究開発に心血を注いでいた。
「そういえば、フラヴィさんはどうしているかしら。能力的には非常に優秀だから、教官職は適任だと思ったのだけど……」
「確かに、優れた後進を多数輩出しておりますし、社長の采配は適切でしたわ。ただ……どうも噂では、教え子達にアレをばら撒いているようで……」
「……来週の会議の議題になるかも知れないわね、彼女は」
一方、救芽井エレクトロニクス直属の精鋭部隊「レスキューカッツェ」の隊長を務めていたフラヴィ・デュボワは、部下の西条夏にポストを託す形で隊を去り――現在ではアメリカの本社で教鞭を執る立場となっている。
本社を率いている救芽井甲侍郎が太鼓判を押すほどの実績を上げている彼女だが、三十路手前でありながら未婚である現状を憂いてか、訓練生達に婚姻届を教材ごと配るという問題行動を繰り返す常習犯でもあった。
現地の生徒曰く、講義を終えた彼女は飢えた野獣の眼をしていたという……。
「……ところで社長。そろそろ面会のお時間では?」
「そうね。――行きましょう」
その時。ジュリアが指し示した時刻を見遣った樋稟は、目の色を変えて立ち上がる。
ジュリアもまた、神妙な面持ちでその背中を見守っていた。
救芽井樋稟が社長室を出て、直々に外へ出向く。それが並々ならぬ案件であるということは、彼女を知る者達にとっては常識であった。
海外の大企業との商談か。他国の政府との交渉か。大勢のボディガードに囲われながら、社内を歩くその姿に、道行く社員達の誰もが注目していた。
そして、参列した社員達の中央を進み――彼女は、専用のリムジンに乗り込んで行く。
その後、秘書のジュリアやボディガード達が続いて行き――黒一色に塗装された厳かな高級車は、静かに目的地へ走り始めた。
……だが、彼女がこれから向かう「面会」には政府も企業も絡んではいない。いわば、完全な彼女の「私用」であった。
しかし、彼女の背景を深く知る一部の人間に、その行いを咎める者はいない。
例え私用であろうと、彼女が会わねばならない人物が――そこに居るのだから。
「――来たか」
東京橋正管区、府中刑務所。
その牢の中に生きる、一人の男が顔を上げる。
男の名は――伊葉和雅。
かつて、総理大臣と称されたことのある男だった。
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