第231話 旅立ち
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一つ屋根の下で暮らせば、やはり変わっていくものなのだろう。元々矢村は友達も多く、人当たりもいい方だったからな。
「――これは、今生の別れなんかやない。そうやろ?」
「――決まってんだろ」
そして、深く繋がった絆を象徴するかのように。彼女達はこつん、と互いの拳をぶつけ合う。
離れ離れなどではない。必ずまた会える。そう確かめ合うかのようだった。
「さぁ、そろそろ時間よ。……体に気を付けてね」
「今日ここに、お前の仲間達が集っていたこと――決して忘れるな。お前は、独りではないのだぞ」
「……うん。それじゃあ、行ってくる」
俺が乗る便についてのアナウンスが始まり――いよいよ、その時が近づいてきた。
両親の穏やかな言葉は、むず痒いようで……暖かい。少しだけ、ほんの少しだけ心細さを覚えていた俺にとっては、何物にも代え難い助け舟となっている。
「もう大丈夫さ、お前なら。自分が守りたいもの、したかったこと。それを忘れない限り、ダメになんかなりゃしない。この俺が保証してやる」
「兄貴……」
「ヒーローらしく、バッチリ決めて帰ってこい。お巡りさんも商店街のおっちゃん達も、みんなお前を待ってるからな」
「……ああ。楽しみにしてるよ」
そして。
兄貴と言葉を交わす時間を、少しだけ名残惜しんだ後。
「さあ。行くか、ダウゥ」
「……おう。ワーリも、待ってるからな」
俺達は踵を返し、他の乗客に混じるように搭乗ゲートに向かっていく。俺の手を握るダウゥの手は、僅かに震えていた。
……未だ混乱に苛まれている故郷に帰るのが、怖いのだろう。
「リュ、リュウタ……」
「怖がることなんかない。――って言っても無駄だろうけどな。自分一人で戦うわけじゃないってこと、忘れんなよ」
「……うん」
そんな彼女の手を、強く握りしめ――俺は俺なりに、彼女の背中を押して行く。絶対に、一人にはさせない。そのために、俺達がいるんだから。
「頑張ってね、龍太君!」
「龍太様……ご武運を」
「先輩……負けないでね」
「これ以上身体をぶっ壊さないこと! いいわね!」
「行ってらっしゃい。お母さん、応援してるからね」
「自身が信ずる全力を尽くせ。例えどのような状況に立たされようと、それさえ出来れば……お前は英雄だ」
「……とかなんとか難しいこと言ってる親父のことは気にしないで、とにかく頑張ってこい! ケツは兄ちゃんが持っててやるからな!」
……そうして、皆から少しばかり離れた時。背中に受ける数々の激励が、俺の肩を震わせる。
みんな、行ってきます。そして――
「……行ってくる。賀織」
「……待っとるけんな。龍太」
――賀織。
声にならない、その短い言葉を交わし終えて―
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