第228話 不思議な感慨
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んだよ……もうこんな時間か」
――そう。時間とは不思議なことに、ちょっと物思いに耽るだけで物凄く短く感じることがあるのだ。午後六時まであと十分、ということにようやく気付いた、今の俺のように。
一見すれば吸い込まれるように蒼い空も、遠くに目を向けてみれば徐々に黄昏が滲み始めているのがわかる。夏という季節ならではの、日の長さだな。
「やれやれ。……とにかく、そろそろ帰るか。――トゥアッ!」
今日一日、何も起きなかったことに感謝しつつ、俺は屋上から勢いよく飛び上がり――夕焼けに滲んで行く空を舞う。
……そして、平和を少しずつ感じて行く度に。俺の脳裏に、あの日の伊葉さんの声が蘇っていた。
――伊葉さん、どうしてるかな。もう晩飯は食ったのかな……。
そして、幾度となくジャンプを繰り返し――ようやく自宅に辿り着いた時。
入り口の近くに、人影が伺えた。あれは……矢村?
「あっ! 龍太おかえりっ!」
「矢村じゃないか。どこに行ってたんだよ、部室にも家にもいなかったし……」
「そ、それはホラ……お楽しみってヤツやけん」
「……?」
俺を見つけるなり、彼女は満面の笑みでとことこと駆け寄ってくる。そんな彼女の前で着鎧を解除しつつ、俺は目の前の違和感に首を傾げた。
「……その両手に持ってるクラッカーは何なんだ?」
「ギクッ! い、いやこれは――って、そんなんええから早よ行こ! 皆待っとるんやからっ!」
「みんな……って、ちょ、ええっ!?」
矢村は質問に答えぬまま、強引に俺の手を掴んで自宅に引っ張り込んでいく。
……皆って、どういうことだ? 着鎧甲冑部の皆もいるってことか? 昼間の部室には誰もいなかったんだが……。
そんな俺の疑問に応じる気配もなく、矢村は俺の手を引いて玄関の先を進んでいく。そこから先には――かつてない程の「人の気配」で溢れていた。
なんだ……? この先に、一体何が――
「一煉寺龍太君、十八歳の誕生日おめでとぉおーっ!」
「おめでとう、龍太っ!」
「おめでとうございます、龍太様」
「……おめでとう、先輩」
「おめでとう! イチレンジ!」
――って、うぇぇえ!?
なんだ、この所狭しと俺ん家に集まった人の数は。なんなんだ、このクラッカーの一斉射撃は!?
……大体、俺の誕生日なんてとっくに過ぎて……あ。
「そっか。誕生日パーティー、してなかったんだ……」
そう。着鎧甲冑の資格試験を終え、松霧町に帰ってきた時から、すでに戦いは始まっていた。
ジェリバン将軍との決闘、茂さんとの再戦、ラドロイバーとの決着。何もかもが、立て続けに続いていたのだ。確かに、俺の誕生日パーティーなんてしてる暇はなかったよな。
「ほらほら、龍太君
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