第214話 真理と力と三つの影
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を切り裂き。
悲鳴を上げる暇もなく。
彼女の鳩尾に、ラドロイバーの膝が突き刺さる。
『命令違反は、重罪です』
次いで、感情のない、冷たい声が風に乗り。集音マイクを通して、俺の聴覚に届く頃。
救芽井は膝から崩れ落ちるように、倒れ伏していた。
その様子を見下ろす彼女の瞳に、光はない。まるで、羽虫が落ちていく姿を眺めているかのようだった。
……彼女にとって、救芽井は倒すべき外敵ですらなかったのかッ……!
『ま……ま、ちな、さっ……』
『……意識は保っていましたか。さすがにそこまで貧弱ではなかったようですね』
――だが、そんなラドロイバーの評定を、救芽井は覆して見せた。
震える腕を伸ばし、踵を返したラドロイバーの片足にしがみついたのだ。すがりつくように彼女を捕まえているその姿からは、ここで逃がせば更に町が燃やされると、自身を奮い立たせている意志が伝わってくる。
その決死の思いが、立ち去ろうとしたラドロイバーを引き止めていた。
しかし、ラドロイバーの顔色は変わらない。彼女は石ころを蹴るような仕草で、救芽井を簡単に振り払ってしまう。
『あうッ!』
『……ですが、これでわかったでしょう。所詮、力の伴わない正義に値打ちなどないのだと』
『……な、んですって……! あ、あぁっ!』
屋上に打ち捨てられた救芽井は、震える身を起こそうとする。しかし鳩尾に入った衝撃は想像以上だったらしく、短い悲鳴と共に倒れこんでしまった。
『あなた方がどれほど気高い精神で、着鎧甲冑の兵器化を封じてきたか。私も知識だけなら知っているつもりです』
『なら、どうしてこんなッ……』
『――知った上で、愚かであると感じたからです』
『なんですって!?』
『言語も文化も常識も違う。そんな人間ばかりがひしめき合うこの星に、あなたが掲げるような薄甘い理想はあり得ない。あるとすれば、それは全てを屈服させる圧倒的な武力によってのみ実現しうる概念です』
救芽井を煽るような言葉を選び、ラドロイバーは淡々と語る。まるで、事務的に授業を進める教師のようだ。
『……それでも、私達はッ……!』
『その「それでも」という想いの果てにあるのが、この状況なのですよ。命を救う力は、兵器に始まる武力ありきのもの。優しさとは、強さのあとについて来るものなのです』
『うッ……!』
しばらく救芽井を見下ろしていたラドロイバーは、そこで言葉を切ると再び踵を返してしまった。一瞥する価値もない、と背中で語るかのように。
『……ダスカリアン王国の姿をご覧になればお分かり頂けることでしょう。あの国は日本の支援がなければとうに崩壊し、諸外国の紛争に巻き込まれ国土も分裂していたはず。生き延びた元国民も、流れた先の紛争に駆
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