第212話 陽炎の向こうへ
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向こうも侮って戦術は変えてこないでしょう。そこが狙い目です』
救芽井は潜伏したまま、隊員に対して毅然とした面持ちで答えている。しかし、その声と体は僅かに震え、額を汗が伝っていた。
目に見えて、憔悴しているのがわかる。彼女にとっても、ここは思い出深い町なのだ。加えて責任感が強いこともあり、焦燥感は人一倍なのだろう。
――捕縛どころではなくなる。つまり、殺してしまうかも知れない、ということか。
これが戦争であり俺達が兵隊だったなら。何を甘っちょろいことを、と一蹴されていたことだろう。だが、俺達は兵隊ではない。
その一線を越えてしまった時、着鎧甲冑は兵器に成り果ててしまうのだ。
『こちらデュボワ分隊。特に異常はないぜお嬢様』
『わかりました。そのまま警戒を厳にして待機――』
そして何事もないまま、四十分が経過しようとしていた――その時。
デュボワ分隊と救芽井分隊を結ぶ地点。
松霧高校から、火の手が上がる。
『なっ……!?』
『きゅ、救芽井分隊から各隊へ! 松霧高校にて火災発生!』
『敵襲だッ! 近くにいるぞッ! 各隊員、警戒を怠るなッ!』
『そ、そんな……! 学校が、私達の学校が!』
慣れ親しんだ校舎が、巨大な炎により瞬く間に飲まれて行く。その光景に、救芽井は為す術もなく取り乱してしまっていた。瀬芭さんのカメラも慌ただしく揺れており、俺から見える視界は一向に安定しない。
そして、緊張の糸が緩みかけた瞬間に襲撃を受け、救芽井分隊は騒然となった。
囮となるデュボワ分隊。そこに食いつくラドロイバーを足止めするための救芽井分隊。その布陣を崩すなら、松霧高校を破壊して救芽井の戦意を削げばいい。
確かに効率的だ。しかし、この策には問題がある。
その手が通用する特殊ヒーローなんて、松霧町との縁が特に深い救芽井くらいのもの。救芽井分隊が今いる地点に他の分隊がいれば、撹乱には至らないはず。それに、獲物になるデュボワ分隊がその近くにいる確証もない。
にもかかわらず、ラドロイバーはピンポイントで松霧高校を焼き討ちにして、救芽井の精神を崩して見せた。護衛のメンタルを揺るがすことで獲物のデュボワ分隊を丸裸にする、というおまけ付きで。
つまり。
『バレてるぞ、アタイらの配置ッ!』
フラヴィさんの叫びが、通信越しに救芽井分隊に響き渡り――全分隊に動揺が走る。
そう。こんなピンポイント攻撃、誰がどこに潜んでいるか把握していなければ出来ない。向こうのエネルギーが有限なら、無駄な破壊行為でしかないからだ。
恐らくは、向こうも生体レーダーを所持している。しかも「どこに人間がいるか」ではなく、「どこに誰がいるか」がわかるということは、こちらのレーダーより高性能であ
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