第211話 女傑の怒号
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俺の眼前に映された景色は、地獄だった。
町中のあらゆる場所が消し炭と化し、あちこちに瓦礫や着鎧甲冑の破片が転がっている。
しかも散乱しているパーツの多くはR型――つまりレスキューカッツェのものだ。
「く……!」
無意識に、唇を噛み締める。武装を持たない補給部隊から、先に潰そうという算段なのだ。加えて、個々で強い力を持っている相手を避けながら、確実に勝てる相手だけを狙っている。
敵はたった一人だというのに、連合機動隊の誰もが平静を欠いていた。指揮系統の混乱を収めるために全員が一旦病院前に集まっているらしいが、ほとんどの隊員は露骨なまでに狼狽している。
『どこだ、どこなんだよ犯人はぁ!?』
『落ち着け、パニックを起こすなッ!』
『ちくしょう! 出てこいよ卑怯者! どうせ殺ろうと思えば簡単に殺れるくせに!』
一部の隊員の焦りは徐々に伝染し、やがて連合機動隊を飲み込んだ焦燥感は、レスキューカッツェにも及んでいた。
『ひりりん様、皆様……あ、ああ、どうしたら……!』
プレッシャーに呑まれつつある西条さんが、レスキューカッツェの畏れを代弁するかのように、涙声を漏らす。その仮面越しの眼差しは、助けを求めるように救芽井――「救済の先駆者」に向けられていた。
すると……その時。
『狼狽えてんじゃねぇダボがァァ!』
『ひぁああ!?』
天を衝く叫びが轟き、西条さんの頭に拳骨が落ちる。
『命張る仕事で飯食ってる連中がビビってんじゃねぇ! てめらそれでもキンタマ付いて――あら失礼』
次いで、その声に追従するかのような怒号が響く。が、言い終える寸前で正気に戻ったのか、最後の方は大人しい声色だった。
激しい発声の振動による、声の主の胸の揺れ。それさえ見極めれば、識別は容易だろう。
顔が隠れていたってわかる。ぶるるんっと派手に揺れるフラヴィさんと、ぷるんっと小ぶりに揺れるジュリアさん。
この二人の雄々しい叫びに、連合機動隊もレスキューカッツェも静まり返っていた。
『いいか玉無し共。奴は戦闘のプロだ。着鎧甲冑の鎧に守られてなきゃ、決して怪我じゃ済まねぇ。それにアタイらが泣いて喚いて命乞いしたところで、助けてくれるお人好しでもねぇ』
『つまりビビって動かない奴から死ぬってことだ。やられて泣くぐらいなら、怒れ。戦意がありゃ生き残るって保証はねぇが、戦意をなくした奴は確実に死ぬと私は断言する』
二人の女傑による演説は、全ての着鎧甲冑の資格者達を一様に惹きつけていた。道理の通用しない相手を前にしている彼らが畏れに立ち向かうには、彼女らのようなリーダーシップを持つ「大将」が必要だったのだろう。
『わかったな? わからなきゃ――』
『――私ら二人が』
『玉をもいで』
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