第4章 夢の中の天使
第207話 運命の狼煙
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快晴の青空。木の葉を撫でる風の音。
穏やかに波紋を描く透明の池。
静かな山奥、などという言葉は、きっとこんな場所のためにあるのだろう。ここに居ると、今が大変な状況であることさえ、忘れてしまいそうになる。
「ひさぁ〜みずぅ〜のぉ、あつぅ〜いちぃ〜はぁ〜……っと、どうじゃ鮎美君、君も一曲!」
「あ、あら、私歌は上手ではありませんのよ」
「か〜まうもんかい! 歌は心で歌うもんじゃ! 瀬芭、マイク持ってこんかいマイク! 今度はデュエットで行くぞい!」
「もう、あなたいい加減になさい。こんな朝早くから……お酒臭いですよ」
「なんじゃいなんじゃい、舞たんのケチんぼ!」
「……父上。鮎美さんへのナンパならワガハイを通してからにして頂きたい」
「ほう、わしに楯突くか。いいじゃろう、鮎美君を賭けてカラオケ勝負じゃ!」
「望むところ! 見ていて下され鮎美さん、ワガハイの勇姿をッ!」
「人を勝手に賭けないでくれる!?」
――この騒がしさがなければ、の話だが。
湯飲みを手に廊下で池を眺めている俺の背後では、毅さんが朝っぱらから朝食の場で全力フィーバーしており、舞さんがフォローに奔走している。茂さんは父に睨みを利かせつつ勢いよく立ち上がり、瀬芭さん達使用人一同は毅さんに付き合って合いの手を入れていた。
恐らく、これが久水家の日常なのだろう。並外れた胆力の持ち主であるはずの鮎美先生も、この空気に飲まれて若干タジタジの様子。……ここに古我知さんがいたらさぞ激しいカラオケ大会になったろうな。
「……」
「あれ、鮎子は参加しないのか」
「……騒がしいのは苦手」
「――あはは、確かにあれは俺もごめん被る」
そんな騒々しい朝の食卓を抜け出し、鮎子は俺の隣にちょこんと座り込む。カラオケ大会を抜け出す隙を見極めたこの手腕も、特訓の賜物なのかも知れない。
「……先輩。昨日、梢のこと振ったよね」
「……!」
――この察しの良さも、だろうか。
「今朝、梢の頬に涙の痕が残ってた。梢が泣くなんて、よっぽど」
「……やっぱり、わかるんだな」
「わかるよ。梢のことなら」
射抜くような真剣な眼差しで、鮎子は俺を真っ直ぐに見つめる。その瞳は、表情を引き締める俺の顔を克明に映していた。
「怒ってるのか」
「……あなたが決めたことに、口を出すつもりはない。けど、ここまでしておいて賀織まで泣かせたりしたら、今度こそ許さない」
「肝に命じる。これから一つになる相棒にまで、失望されちゃかなわんからな」
不敵に口元を緩め、俺はその小さな肩に掌を乗せる。
――そうさ。
俺はこれから、鮎子と二人三脚で、ラドロイバーや将軍に立ち向かわなければならないんだ。ここで、いつまでも立ち往生しているわけ
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