第206話 終わる恋、始まる戦い
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い頃、こんな風に月がすっごく綺麗な夜……一緒に星を見に行ったよね」
「……ちょうど、今みたいな夏の日だったか。一度だけ、先輩が家を抜け出した時だったよな」
「お父さんにもお母さんにも、いっぱい叱られたけど……それでも、楽しかった。本当に楽しかったんだ。あんな日がずっと続くなら――それが叶わないなら、いっそ時間が止まってしまえば。そんな風に思うことは、何度もあった」
お嬢様らしさも高飛車さもない、ありのままの素顔。その全てを解き放ち、明るく過去を語る彼女の笑顔は、まるで全ての憑き物が落ちたかのようだった。
「だから、あなたと離れ離れになったとき……あなたみたいな、優しい子になろうと思ったんだ。そしたら、また昔みたいに一緒にいられる。素直に好きって言えるようになったら、また一緒に遊べるようになるっ……て」
「……そっか」
「そう思ったから――あなたに色んなものをいっぱい貰ったから……こんなわたしでも、鮎子と友達になれたんだと思ってる」
廊下に座り、月の灯りを浴びながら――あの日の少女は、優しげな声色で親友の名を呼ぶ。鮎子の名前が出るだけで、彼女の頬は安らぐように綻んでいた。
久水家の娘として、茂さんの秘書として生きてきた彼女が、それほどまでに気を許せる間柄なのだ。俺には想像もつかないほどの絆が、彼女達の間にはあるのだろう。
「ねぇ。りゅーたん」
「ん?」
隣に座る俺の手の甲に、彼女の柔らかい手が重なる。この手を握り返すことは叶わないけれど……それでも、この温もりを守ることは出来るはずだ。
「鮎子のこと……ちゃんと守ってあげてね? りゅーたんも……元気に帰ってきてね?」
「……心配、ないさ。俺は先輩が思ってるよりずっとタフだし。鮎子は、俺なんかよりずっと――強い」
「そっか……よかった」
その言葉を聞いた彼女は、心から安堵するように微笑むと――自分の頭を、俺の胸に預ける。
……そうだ。俺は、鮎子を守るんじゃない。あの娘と、共に戦うんだ。もう、一人で拳を振るって戦うわけじゃないんだ。
だから――俺も、鮎子を信じるよ。先輩が、俺を信じてくれたように。
「ねぇ、りゅーたん」
「うん?」
「もう少しだけ……こうしてていい? ……昔みたい……にっ、一緒……に……ッ!」
そう語る彼女の「本音」は、言い終えないうちから濁流となって、その瞳から溢れ出していた。決闘の結果が意味する、親友に降りかかる試練。俺の言葉が意味する、十年以上に渡る恋の終わり。
幼い頃の素顔に立ち戻っても、誤魔化し切れないその事実の重さが今、一斉に彼女に降りかかっていた。
筆舌に尽くし難いその泣き声は、小さくも強く、俺の胸に響いている。
「……変っ、だねっ。こうなるって……決闘が決まった、あの日から
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