第203話 雄の性
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急所に叩き込む、あの刹那。片手だけでライフルから電磁警棒を切り離した茂さんは、俺がやったように弾かれた反動をバネにして、反対方向へ電磁警棒を薙ぎ払ったのだ。
俺に裏をかかれていながら、さらにその裏を瞬時にかいてきやがった。……どうやら、技量の差はあの一瞬で暴かれちまったらしい。
……ま、いいさ。どのみちその分野で勝てるとは思っちゃいない。結局俺の拳は入ったんだから御の字さ。
あとはもう一度立ち上がって、勝利宣言でもすりゃあ、それで終わ……り?
あ、あれ。参ったな。
うまく、立てねぇや。
「……ぐ」
向こうも、手痛い一発を食らってグロッキーだってのに。相打ちじゃあ、意味ねぇってのに。
ちくしょう。これじゃあ、約束はどうなるんだよ。矢村はどうなるんだ。ダウゥ姫はどうなるんだ。
俺が守りたいものは――どうなっちまうんだよッ!
「うっ……ぐ、おおおッ、ああッ……!」
「ん……むぅ、ぬぅぅうぅ、オオォッ!」
己の身から、滾る血を絞り出すように。
俺達は、もう一度立ち上がる。
「や、むら……!」
「あゆ、み、さん……!」
呼んだのは、女の名前。
俺達の中にある雄を突き動かす、理由の全てだった。
そして、その原動力が命ずるままに。
動くはずのない身体を引きずり、再び俺達は向かい合う。
「負けられない、んだ……!」
「ま、け、られぬッ……!」
もう、どれほど攻撃を入れればいいとか。どう立ち回ればいいとか。そんなことを考えていられる余力はなさそうだ。
だが、これだけは間違いない。
最後まで、意識を保ってさえいれば。
生きてさえいれば、俺の勝利は揺るがないのだ。
生きなければ……そう、生きて、戦わなくては。
……けど、変だ。
今まで、俺は人間を辞めるつもりで……心から「怪物」になる気で、戦ってきた。
そうでなくては、誰も救えない。兄貴の傷を見た時からは、より強くそう思えたから。
――それなのに。
「……?」
そんなことを望める身分じゃないのに。
死にたくない、と思ってしまう。
そんな自分を、心のどこかに感じていた。
俺は、「怪物」には……なれなかった……?
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