第202話 茶番の本番
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……な、んだ。今の、一発は。
俺の意表を完全に突くように――計算し尽くされた、銃床の一撃。あれを、直情的なフェンサーだった茂さんがやったというのか。
「三日月――顎の側面に当たる人間の急所を突いた。貴様なら、わかるだろう。そこを攻める一撃を受けてしまえば、立ち上がることさえ困難になると」
今までとは、根幹の精神から違う戦い方。その現実を改めて、実感させる攻撃だった。
それを悟るには……遅すぎたのかも知れないが。
だが、まだ終わりではない。……終わりになど、させるものか。
「……そんな、人間様の理屈。怪物まがいに当てはめるんじゃねえ」
「……一寸の狂いもなかったはず。完全な直撃だった。にもかかわらず――立ち上がるか、化物め」
震える足に幾度となく拳を打ちつける。頭の痺れを忘れるように。手の痛みだけで、他の感覚全てを塗り潰すように。
「……!」
自分でもわかるほどの、この常軌を逸した行動を繰り返す俺を目の当たりにして、女性陣は戦慄の表情を浮かべる。
本来、女の子に見せるようなものじゃあるまいが――ここは戦地だ。男も、女もない。一蓮托生の相棒を前に、猫を被る必要もないだろう。
そして、その暴挙をただひたすらに繰り返し――足元が血溜まりを作る頃。俺は、更に紅く染め上げた拳を翳し、完全に立ち上がる。
これが、人間をやめるってことだ。救えるものを救うために、人間の壁さえ越えんとする意思の証なんだ。
「どのような痛みに苦しもうと、己は曲げられぬ。それが貴様の答えか」
「……ハァッ、ハッ……」
「――しかし如何に精神が肉体を凌駕しようとも、その肉体が機能を失えば全て無に帰する。ダスカリアンを守らんと立ち上がった兵士達が、あの巨人に蹂躙されたようにな」
そんな俺を冷徹に見下ろし、茂さんは淡々と言葉を紡ぐ。俺の為すこと、全てが無駄であると諭すかのように。
「貴様はそのダスカリアンの民草と平和を守るため、と宣うが――その身と心を突き動かしている原動力は、そんな曖昧な大義名分ではなかろう」
「……!」
「言えぬか。当然だな。所詮、何もかも貴様のわがままから生まれた戦いでしかないのだから」
……大義名分、だと。何を言うつもりだ、こいつは。
「言えぬというなら、それでもいい。オレが代わりに言ってやろう」
「……な、に」
「貴様は矢村賀織を好いている。故に、その面影を持ったダスカリアンの王女にその姿を重ね――見捨てられなくなったのだ」
面影……? ダウゥ姫と、矢村が……。
「だが、そんな貴様のわがままに付き合わせるためだけに、鮎子君に『新人類の身体』に立ち戻ることを強いるのは忍びなかった。だから貴様はダスカリアンの民草という体のいい大義名分を持ち出して
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