第202話 茶番の本番
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、彼女の顔を立てようとしたのだ。……気づいていたのだよ、梢はな」
「……!」
茂さんの言及に反応し、俺は咄嗟に視線を女性陣に映す。
久水先輩はただ苦々しい表情で、俺をじっと見つめていた。……もう見ていられない、と言いたげに。
「男が命を張る理由など、そんなものだ。だから貴様も、プロポーズしてまであの娘を手に入れようとしたのだろう。今の自分の生き方では、長くは持たないとわかりきっていたのだから」
「……ッ!」
「オレも、鮎美さんに汚れ役をさせたくない、という下心から貴様に挑んでいる。だからそれが悪いことだとは思わん。だが、そんな理由で動く男が『怪物』であるはずがない。常人よりは遥かに強くとも、その壁を破るには至らぬ。『救済の超機龍』が貴様の兄のようなオーバーヒートを起こしていないのが、その証だ」
「……だ、まれ……!」
「まだドス黒い悪夢の中にいるのなら、オレが覚ましてやる。いいか、貴様は怪物などではない。怪物になろうと足掻いているだけの人間。そんな貴様を動かす理由など、女一人で充分だ」
好き放題に言いたいことを言いながら、茂さんはじりじりと間合いを詰めてくる。既にフラフラな俺を前にしているというのに、その構えには一片の慢心も感じられない。
実際のダメージ以上にフラついて油断を誘うつもりでいたが――こりゃあ、読まれてるな。
なら、実力で制圧するしかない。俺の胸中に土足で上がり込んでくるこの男を、黙らせるために。
「――どこまでも、周りに信を置かぬ男だ。四郷姉妹も、梢も、樋稟も……そして恐らくは矢村賀織も。皆、貴様が振りかざすわがまま故にその身を救われ、それ故に貴様を慕っている。そんな彼女達が、貴様の本音を知ったところで想いを揺るがすはずもないというのに」
「……にが……てんだ……!」
その今にも噴き上がらんと燻る激情を、さらに焚き付けるように。茂さんは挑発を重ね――刺突の間合いに入る。
俺も防御を無視した攻撃の構えを取るが……さっきの一撃もあり、足元がふらつく。
だが、負けられない。これはラドロイバーやダスカリアンがどうこうじゃなくて――単純で野蛮で、ある意味最も俺らしい怒り。
――こいつが、気に入らない。その奥底から流れ出る本音という激情の奔流が、俺の全てとなっていた。
そして――
「……よく知りもしない小国などをダシにくだらん御託を並べおってッ! 人を本気で動かしたいのなら、貴様も本音を語らんかァァァァッ!」
「あんたに……なにが、わかるってんだァァァァッ!」
――大義名分も何も無い。ただムカつくという理由だけの、一騎打ちに発展する。
ダスカリアンの命運を分ける決闘なんて、格好のいいものじゃない。
こんなもの、ただの茶番だ。
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