第198話 京都の兄妹
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され、四郷はコンピュータを畳んでその場を離れていく。その途中、ぎこちない笑みを俺に見せながら。
……俺の都合でフラれて、その上でエゴに付き合わされて。それでも、俺を励まそうってのか。それで、あんたは……!
「さて、次は私が降りる番ね。……負けんじゃ、ないわよ」
「……ああ」
ヘリから吊るされたハシゴを伝い、訓練用コンピュータを背負う四郷が地面へ降りて行く。そんな妹に続くように、研究機材を背負った鮎美先生もハシゴに足を掛けるのだが……その背は、焚きつけるように俺を励ましていた。
こんな俺でも、助けようとしている。勝たせようとしている。姉妹揃って、割に合わないことをしやがる……!
「……勝つさ。絶対に、勝つ」
そう、誓いながら。俺は姉妹の後を追う。
今はただ、戦うことだけを考えていよう。それこそが四郷姉妹の激励への、せめてもの報いになると信じて。
――そうして、久水家の正門に広がる石垣の広場へ降り立った俺達を、静かに出迎えるように……一人の男が、その姿を現した。
「――よく来たな」
「――ああ。遊びに、とは言えん用事だがな」
獰猛に、それでいて狡猾に、獲物を狙うように細められた鋭い瞳。日の光を浴びて、まばゆく輝くスキンヘッド。百八十センチを悠に超える長身。
――そして、黒の袴姿の上からでも分かる、鍛え抜かれた浅黒い筋肉。
この男こそ久水財閥現当主にして、俺に次ぐ着鎧甲冑所有資格の最年少保持者、久水茂なのだ。
「……久水、茂……!」
「どういう風の吹き回しかは知らないけど――今日の彼、今までとは別人のような眼をしてるわね」
普段は西洋趣味にかぶれ、さながら英国紳士のような格好をすることの方が多い彼だが、今は本家である京都に身を置いているためか、いつもの姿からは想像もつかない和服に身を包んでいた。
「随分と、イカした格好じゃないか」
「貴様こそ、随分と似合う格好になったものだ。その衣が纏う炎、世の理から外れた狂龍には丁度いい」
とにかく、あんな好戦的な面構えで出て来たからには、のんびり話し合う気は向こうも持ち合わせてはいないと見ていい。
彼がご執心なはずの鮎美先生が近くにいるってのに、そっちには目もくれない有様だし――すぐにでも、俺と彼の一騎打ちが始まりそうな予感だ。
……すると、その時。
「あら、二人とも穏やかではありませんわね。そのような血の気の多さでは、どちらが勝ってもこの屋敷の敷居は跨がせられなくってよ?」
女の色香と、静けさを滲ませる柔らかな声が、緊迫した久水家の入口に響き渡る。
声色そのものは聞き慣れたものであるが、その穏やかな口調と佇まいは、まるで別の何かがとり憑いたのかと思う程の変わりようであった。
「
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