暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
第197話 言葉よりもシンプルに
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対して思うところはあったのか――ほんの一瞬だけ、ためらうようにこちらを見つめてから、彼女は他の皆と一緒にヘリから離れていく。
 ローターが巻き起こす風に、僅かな雫を乗せて。

 ――ありがとう、救芽井。

 そして、最後に。

 俺の眼差しは褐色の少女――矢村賀織へ向かう。
 俺と彼女の瞳が交わる瞬間、矢村のくりっとした眼は見開かれ、その顔は真っ赤に染まっていた。かつて口付けを交わした唇はキュッと縮こまり、緊張している様子を伺わせている。

 いつからなのだろう。このちんちくりんな昔馴染みを、愛おしいと思ったのは。

 思えば、初めて会って間もない頃から、俺は彼女との時間を楽しんでいた。
 それに彼女の近くにいたいと思わなければ、彼女を巡った喧嘩などしなかったはずだ。あの頃の俺は、拳法のけの字にも触れていなかったのだから。

 俺が救芽井と出会い、レスキューヒーローとしての活動を初めて、彼女と二人で居る時間がなくなってきて初めて、それを実感出来た、ということなのだろう。我ながら、贅沢なことをしていたものだ。

 だが、気づいてしまえば。想いが繋がっているのなら。もう、やることは一つ。

 惚れた女なら、落とすまで。
 他の誰にも、渡しはしない。

「――矢村」
「あ、りゅ、龍太! あ、あんな、アタシも、龍太のこと、応援しとるから! ずっと、待っとるけん! や、やけん、この決闘が終わって、ダスカリアンが平和んなったら、あ、アタシと――」

 あらかじめ用意していたと思しき言葉を、噛みながらまくし立てる矢村。俺はそんな彼女の前に立つと、その小さな顎をクイッと持ち上げる。

 語彙のない俺には、上流階級お得意の美辞麗句など無理だ。それよりもっと、俺らしいシンプルなやり方がある。
 ……一年前の、お返しだ。

「んっ……!? ん、う……うぅんッ……」

 熱く、深く。俺は、矢村の唇を奪う。この少女の胸中を、塗り潰すように。自分からキスするのは初めてだが――効果は、あるにはあったようだ。

 初めこそ矢村は強く俺の両腕を掴んで抵抗していたが、程なくしてその勢いも失速し……最後は自分から求めるように、俺の背を抱き締めていた。

 二度目の口付けとなるこの瞬間から、約三十秒。俺達の唇は、糸を引いて名残惜しむように離れる。
 既に矢村の表情は、かつてない程に桃色に染まり、蕩け切っている。

 ……あとは、シンプルに要件を伝えるだけだ。

「――結婚してくれ」

「……は、い……」

 その瞬間。
 俺は、彼女に誓う。

 この妻に相応しい、全てを救える怪物的ヒーローになる、と。

 ……さて。

 そのためにも、あの姫騎士を納得させられるだけの強さを見せなくちゃな。


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