第197話 言葉よりもシンプルに
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
対して思うところはあったのか――ほんの一瞬だけ、ためらうようにこちらを見つめてから、彼女は他の皆と一緒にヘリから離れていく。
ローターが巻き起こす風に、僅かな雫を乗せて。
――ありがとう、救芽井。
そして、最後に。
俺の眼差しは褐色の少女――矢村賀織へ向かう。
俺と彼女の瞳が交わる瞬間、矢村のくりっとした眼は見開かれ、その顔は真っ赤に染まっていた。かつて口付けを交わした唇はキュッと縮こまり、緊張している様子を伺わせている。
いつからなのだろう。このちんちくりんな昔馴染みを、愛おしいと思ったのは。
思えば、初めて会って間もない頃から、俺は彼女との時間を楽しんでいた。
それに彼女の近くにいたいと思わなければ、彼女を巡った喧嘩などしなかったはずだ。あの頃の俺は、拳法のけの字にも触れていなかったのだから。
俺が救芽井と出会い、レスキューヒーローとしての活動を初めて、彼女と二人で居る時間がなくなってきて初めて、それを実感出来た、ということなのだろう。我ながら、贅沢なことをしていたものだ。
だが、気づいてしまえば。想いが繋がっているのなら。もう、やることは一つ。
惚れた女なら、落とすまで。
他の誰にも、渡しはしない。
「――矢村」
「あ、りゅ、龍太! あ、あんな、アタシも、龍太のこと、応援しとるから! ずっと、待っとるけん! や、やけん、この決闘が終わって、ダスカリアンが平和んなったら、あ、アタシと――」
あらかじめ用意していたと思しき言葉を、噛みながらまくし立てる矢村。俺はそんな彼女の前に立つと、その小さな顎をクイッと持ち上げる。
語彙のない俺には、上流階級お得意の美辞麗句など無理だ。それよりもっと、俺らしいシンプルなやり方がある。
……一年前の、お返しだ。
「んっ……!? ん、う……うぅんッ……」
熱く、深く。俺は、矢村の唇を奪う。この少女の胸中を、塗り潰すように。自分からキスするのは初めてだが――効果は、あるにはあったようだ。
初めこそ矢村は強く俺の両腕を掴んで抵抗していたが、程なくしてその勢いも失速し……最後は自分から求めるように、俺の背を抱き締めていた。
二度目の口付けとなるこの瞬間から、約三十秒。俺達の唇は、糸を引いて名残惜しむように離れる。
既に矢村の表情は、かつてない程に桃色に染まり、蕩け切っている。
……あとは、シンプルに要件を伝えるだけだ。
「――結婚してくれ」
「……は、い……」
その瞬間。
俺は、彼女に誓う。
この妻に相応しい、全てを救える怪物的ヒーローになる、と。
……さて。
そのためにも、あの姫騎士を納得させられるだけの強さを見せなくちゃな。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ