第197話 言葉よりもシンプルに
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ったらただじゃおかないわよ」
「百も承知だそんなこと。キッチリ勝って、あんたの妹もあのやんちゃ姫も、全員守り抜く。これは決定事項だ」
「ふふ……その強引さ、ますます凱樹にそっくりね。いいわ、ひとまずあなたに賭けてあげる。あと、なかなか悪くないわね、その服」
「あんたのセンスも大概だな」
鮎美先生は妖しく笑うと、研究機材を載せたヘリに乗り込む。決闘に勝った場合、すぐに俺のデータを取って最終調整に臨まなければならないため、彼女と四郷も同行することになっていた。
そんな姉の後ろ姿を、四郷は憂いを帯びた眼差しで見つめている。
「……先輩」
「そんな不安そうな顔すんなって。……俺は絶対、負けやしないから――」
「……そんなの、わかりきってる。……先輩が、一番大切にしてる人も」
「――ッ!」
だが、その紅い瞳が俺に向かう時。既に彼女の眼は強い決意の色を湛えていた。
白い頬を、僅かに染めて。四郷のつぶらな瞳が、真っ直ぐに俺を見上げている。
「お姉ちゃんだって、苦しかったはずなのに。梢だって、本当は辛いのに。それでも、ボク達のことを想ってくれている。だからボク達も、それに応えるべきだと思うの」
「四郷……」
「だから、あなたの一番じゃなくてもいい。端っこでも構わない。先輩にとっての、大切な仲間の一人でさえいられるなら……ボクは、きっとこの痛みだって乗り越えていける。そうして初めて、先輩と一緒に戦う資格を持てるんだって、今はそう信じてる」
「……」
「……年上のお姉さんに、ここまで言わせたんだから。先輩だって、絶対に勝たなきゃダメ。いい?」
「――ああ、了解だ」
その紅い瞳からは――とめどなく彼女の想いが、溢れ出ていた。両手を胸にあて、その雫を隠そうと俯く彼女は今、救芽井と同じ「痛み」と戦っている。
それを「資格」などと言われてしまっては、いよいよ負けられなくなっちまうな。
溢れ続ける感情の渦を拭い、姉に続いてヘリに乗り込んでいくその姿を見送り、俺は踵を返す。
この町を出る前に、言うべきことは言わなきゃ――な。
振り返った先には、瞳を腫らした翡翠の少女と……俺が想うと決めた、褐色の少女がいた。
「……」
「……」
俺はまず、このユニフォームをくれた翡翠の少女――救芽井樋稟に視線を移すが、彼女は黙してなにも語らない。
しかし温もりを滲ませるその微笑みは、言葉以上に強い想いを俺に伝えている。どんな言葉よりも、暖かく、力強く。
――行ってらっしゃい。負けないでね、私のヒーロー。
――任せとけよ、俺の憧れ。
伝わる。声にならない意思が、声以上に。
二人の間に言葉はいらない、とは、こういうことを言うのだろうか。
それでも、やはり矢村に
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