第196話 落涙と決意
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よかった。昔の顔だよ、龍太君」
「昔?」
小首を傾げた俺を見上げる、蒼い瞳は――痛ましく腫れてはいるものの、その辛さを感じさせてはいなかった。痛み以上の喜び。その感情が、眼差しの奥から、滲んでいる。
「初めて会った時の、バカで単細胞で変態だった時の、あなただよ。迷いも悩みもない、真っ直ぐな眼……」
「はは、全力で貶すか褒めるか、どっちかにしてくれよ」
俺にぶつけたい言葉を、一通り出し尽くしたからか……彼女の表情にも、少しずつだが元気が戻り始めている。もうじき、元通りの落ち着きを取り戻すことだろう。
「じゃあ、私……先に皆のところに行ってるから。……さっきの言葉、忘れないでね!」
「――ああ。絶対だ!」
そして救芽井は強引に涙を袖で拭うと、踵を返して病室を出て行く。その直前に一度だけ振り返り、満面の笑顔を浮かべて。
「さて……俺も、さっさと着替えて行くとすっか」
次いで、俺も救芽井がいなくなってすぐに、貰った新ユニフォームを広げて着替えを始める。デザインは最早諦めたも同然だが、そこは救芽井に注入された気合で補って――
「……ぐっ、ひぐ、ぅう、あ、あああぁっ……!」
「……」
――そう。補えばいい。彼女の、殺し切れなかった泣き声を、ほんの一瞬でも聞いてしまえば……デザインがどうの、なんて言う気はたちどころに失せてしまう。
彼女を苦しめたのは、泣かせたのは、他ならない俺自身。だからこそ、俺は俺に出来るやり方で。
「……ありがとう、救芽井樋稟。そして、ごめんな」
報いなければならないんだ。あの声に。瞳に。涙に。
そのためにも。
「勝つ。……絶対だ!」
絞り出した唸り声と共に、俺は赤い鉢巻を握り締めた。
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