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フルメタル・アクションヒーローズ
第195話 褐色の少女と戦える理由
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けば彼女の声が聞こえるところまで来てしまっていた。
 ……参ったな。それなのに、嬉しい気持ちが出て来てしまっている。手の震えも、いつの間にか止まっていた。

「なぁ、今……ちょっといいか」
『へっ? まぁええけど、明日は朝早いんやろ。大事な日なんやから、あんまり長話はしちゃいけんよ』

 今、矢村は厳重なセキュリティに護られた救芽井のマンションに仮入居している。四郷姉妹は別室だが、確か救芽井が同室だったはず。昼間、あんなことがあった彼女が近くにいるであろう状況の中で、こんな不純な動機で電話をしようとはな……。
 全くもって今更な話だが、ゲスい奴だな俺は。

「わかってる。ただ、お前の声が聞きたかっただけだから」

『え』

「あ」

 そんな時に電話を掛けていながら、気持ちに歯止めが効かない中で、思うままに喋りすぎてしまったせいなのか。
 あまりにもバカ正直で、歯が浮くような文言が飛び出してしまった。

「ん……えっと、今のはだな――」
『フニャァアァアアアァッ! フニュウウウゥッ!』
「――え、ちょ、なに!? 何事!?」
『な、なんなの!? どうしたのよ賀織っ!』
『りゅ、りゅりゅりゅ! 龍太がアタシのこと今すぐ抱きたいって! すぐに赤ちゃん作りたいってぇえぇぇえっ!』
『な、なな、なんですってぇぇえええぇ!?』

 さすがに照れくさかったので、もっともらしい理由を付け加えて誤魔化そうとしていた、俺の卑小な考えを吹き飛ばすかのように。
 矢村の強烈な絶叫と騒音が、電話の先から轟いて来た。皿が割れる音や本棚が倒れる音、救芽井の驚いた叫び。
 ありとあらゆる爆音がひしめき合う阿鼻叫喚の地獄絵図が、繰り広げられていた。

 ていうか矢村。俺はそんな下世話なことは口走っちゃいない。誤解を振りまくのはやめれ。

『龍太君! ちょっとそれ本当なの!?』
「誤解だ、誤解! 少し矢村に用があるだけだよ。夜中に脅かして悪かったな」
『べ、別にあなたが気にすることじゃないけど……じゃあ、本当は何て?』
「矢村の声が、聞きたかった。それだけだ」
『……聞きたいのは私じゃ、ないんだ』
「お前からは、昼間に元気を貰い過ぎちまったからな。これ以上お前の声を聞いてたら、お前に甘ったれて腑抜けになっちまう」
『も、もう……ばか! ……甘えても、いいんだからね。代わるわよ』
「あぁ」

 今は、俺と電話越しに話すのも恥ずかしいのか。
 矢村から強引に代わり、電話の向こうから俺に詰め寄ってきた救芽井は、昼間のことを触れられた途端、露骨に声を上ずらせて引っ込んでしまった。ちょっと可哀想だった……かな。

 そこから数秒の時を経て、気を取り直した俺は再び矢村に話しかけて行く。あの声を、もっと聞きたいから。


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