第194話 翡翠の少女と負けられない理由
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
。それじゃあ改めて、太ぁちゃんに今の気持ちを報告しておきなさい。こういうことは、当人同士が顔を付き合わせてやることよ」
「……え?」
「……へ?」
その時。
ピンポイントでこちらに視線を移す母さんが、思いがけないことを口走り――俺と救芽井は、同時に間抜けな声を上げる。
そして、交わされる瞳。凍り付く空気。
青ざめる俺の顔と、赤く染まる救芽井の顔。
そんな、何とも申し上げにくいひと時を経て。
「りゅ……龍太君……!? い、いっ、いつから……!?」
「あー、うん。まぁ……『あなたがここへ呼ばれた意味、今さら考えるまでもないでしょうね。救芽井さん』……から、かな」
「――ッ! ほ、ほほっ……ほとんど最初からじゃないのッ!」
恥じらいと怒りを迸らせて、救芽井は激情のままに叫ぶ。しかし、その途中で彼女は気づいてしまっていた。
ほぼ最初から俺がいたことが、何を意味するのかを。
「と、とにかく。俺はお前の気持ちに応えるためにも、必ず茂さんとの決闘に――」
「いっ……いやぁぁぁあぁああーっ!」
その事実に耐えきれなかったのか。彼女の告白に対する思いを打ち明けるよりも早く、翡翠の少女は疾風の如くロビーから逃走してしまった。
「え、ちょ、待てってオイ! 俺はッ! お前のためにもッ――痛っ!? なんでいきなり脇腹をつねるんですかね矢村さん!?」
「……言っとくけど! 先に告ったんは、アタシなんやからなっ! 樋稟を追いかけるためやからって、アタシをほったらかす理由にはならんけんなっ!」
「全く……ちょっとは骨があるかと思えば。これは、改めて調教する必要がありそうね。そうでしょ? あなた」
「そ、そう……だな……?」
救芽井を追おうとする俺をつねる矢村。逃げ出す救芽井を、冷ややかに睨む母さん。そんな母さんにタジタジの親父。
いつも通りの日常のようにも見えるこの景色も、そう遠くない内に終わりを迎えるのだろう。
今この瞬間も俺を待ち構えているであろう、あの男の姿を脳裏に浮かべて――俺は窓の外から映る景色を見つめ、拳を握る。
そうだ。負けられないんだ……俺は。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ