第194話 翡翠の少女と負けられない理由
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「え……あ、はい……」
母さんの言葉の意味を汲み取った救芽井は、瞳を潤ませて真実を確かめようとする――が、一瞬にしてキツイ眼差しに戻った母さんに睨まれ、空気を抜かれた風船のようにしょげてしまった。
だが、母さんの「合格」の一言に嘘がないことは、そんな彼女を暖かく見つめる瞳の色を見ればわかる。
そこから僅かに滲む、穏やかさ。それを目の当たりにして、ようやく俺達は決闘の終わりを実感していた。緊張の糸が切れたように、矢村はため息をついて文字通り胸を撫で下ろしている。
「……わかっていたことよ。今のあの子を支えて上げることが、あなたの望みであり、役割でもあるということは、ね」
「そ、そんな……なら、どうしてこんな……」
「支えたいと願うことと、本当に支える覚悟があることとは、まるで違うものなのよ。あなたがこの程度の殺気で己を曲げるような女なら、あの子の側に置いておくわけには行かないの」
「お義母様……」
「正直に言えば、私は今でもあなたが嫌いよ。それでも、あの子が選んだ正しさはあなたの中にある。それがあの子の望みなら……私は、大切にしてあげたいのよ」
俺の言った通りだったろう。
そう表情で語る親父の眼差しが、自らの妻へ向かう時。
母さんの掌が救芽井の頬へ迫る。
救芽井はその動作に肩を竦めるが……それは平手打ちと呼ぶには、あまりにも穏やかで。優しい。
かつては血に濡れることもあったはずの手は今、穢れを知らない肌を静かに撫でている。赤子をあやす母のように。
「だから、私はあなたに望む。あの子の気持ちを裏切らないためにも――必ず、件の姫君を救うことを。そして、あの子の願いを、叶えさせてくれることを」
「……!」
「この私に汗をかかせておいて、出来ないとは言わせないわよ。救芽井樋稟」
穏やかな手つきとは裏腹に、放つ言葉は重い。しかし、その声色は決して救芽井を責め立てるようなものではなかった。
むしろ、その背を押すように――鼓舞するように。勇ましくも、暖かく。
彼女を、支えるように……。
「……はい! 必ず!」
そして、その言葉を受けた救芽井もまた、火を付けられたかの如く気勢を高めている。
――俺の歪な願望を叶えるために、か。
ああまで彼女に言わせておいて、俺がいつまでも手をこまねいているわけには……行かないだろう。それを間違いだと断じる人が、どれだけ居ようと。
俺は、俺自身のためにも。俺を信じてくれる人のためにも。勝たなくちゃいけないんだ、俺は。
「……次は、俺の番だな」
傍の矢村にも気づかれない程の小さな声で、俺は人知れず自分自身に戦いの時が近いことを告げる。戦いが避けられないところまで来ていることを、己に言い聞かせるために。
「さて
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