第192話 嫁姑戦争(物理)
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
に、変化が現れた。
茶色のロングコートが、羽毛を散らしてふわりと落ちる。その上には――紫紺のチャイナドレスを纏う、母さんの姿があった。
豊満に飛び出した胸。くびれた腰つき。大きくも、引き締まった臀部。そして、細くしなやかな手足を覆う――人体の限界まで凝縮された筋肉。
様になっている、なんてものじゃなかった。
まるで、これが母さんの本来の姿であると思い込まされてしまうほどに、その凛々しい立ち姿は堂に入ったものだった。
考えてみれば、今まで母さんは俺の前で露出度の高い格好を見せたことはほとんどない。一緒に風呂に入る相手はいつも親父だったし、常に体のラインが出ない服ばかりを着ていた気がする。
だからだろうか。母さんなのに、母さんに見えない。
「おっ……お義母、様っ……!?」
「構えなさい」
動転しているのは俺だけではない。救芽井は目を見張り、口を半開きにしたまま硬直している。
しかし、母さんは全く表情を変えないままだ。まるで、母さんだけが時間の流れから取り残されているかのように。
そんな俺達の動揺をよそに、母さんはスリットから覗いていた白く流線的な脚を上げ、何かの構えを見せる。
無駄を感じさせない、洗練された佇まい。親父や――将軍に通じるものさえ感じてしまう。なんだ……!? なんなんだ、母さんは!?
「……もう、潮時ということだな。お前だけには知られまいと家族ぐるみで隠していたが……」
その時、沈黙を破って親父が口を開く。その眼の色は、どことなく「何かを懐かしむ」思いを漂わせていた。
「母さん――久美の故郷は、この国ではない。だが、今の彼女にとってはこの国、この家だけが全てなのだ。かつて俺が壊滅させたチャイニーズマフィアの頭領『獄久美』は、もうただの主婦でしかないのだから」
母さんが、誰だったのか。
それが明らかになる時――
「来ないのなら――私から参る」
――物理的な嫁姑戦争が、幕を開けた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ