第189話 姫騎士の眼光
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――鮎子も、あなた様の狂気を受け入れていくつもりでいるようですけれど。ワタクシは、あなた様とあなた様を取り巻く人々のためにも、その狂気を認めるわけには参りませんの」
「……一年前に古我知さんからも、同じようなことを言われたよ。それで、先輩はどうしたいんだ。俺に再試合を降りて欲しいのか?」
メディックシステムには、身体の傷を最高速度で完治する代わりに、通常の治療なら消えるはずの傷痕を一生残してしまう――という欠点がある。その影響で、俺の胸と背中には、鉄骨による大きな裂傷の跡が残されていた。
既に痛みも消えているはずの、その胸を抑え……俺は逡巡する。
――例え弱い心を持ってしまったのだとしても、ここまで来ておいてダウゥ姫を諦めることなど、俺に出来るはずがない。久水先輩だって、それはわかっているだろうに。
そんな身勝手なことを思う俺に向けられる眼差しは、さらに鋭さを増す。凍てつく氷柱のように、硬く――冷たい。
「その通りですわ。鮎子を救って下さった、あの優しさを――この無礼な異国の姫君のために投げ捨てると仰るのならば、そんな『異物』など見捨てて下さいませ」
残酷。久水先輩が放つ言葉は、その一言に尽きた。
その言いように、周囲に更なる戦慄が走り――ダウゥ姫は唇を噛み締めた。憤怒と負い目のジレンマに苛まれ、その愛らしい顔は痛ましく歪んでいる。
そんな彼女へ向けられる久水先輩の眼光は、俺に向けられた時以上の敵意に満ちていた。
「梢先輩っ! あなた、なんてこと……!」
「――ダスカリアン王国は過去……あの憎っくき瀧上凱樹に滅ぼされたとは言え、現在では伊葉氏の活躍で復興へ進みつつありますわ。その恩恵がありながら、わざわざ過去の話を掘り返して無用な衝突を招いた挙句、今回の一件であなた方の仇を討って下さったはずの龍太様にこのような重傷を負わせる。例えラドロイバーが諸悪の根源なのだとしても、あなた方が犯した過ちは到底許されるものではありませんのよ」
「……確かに、な。貴殿の言う通りだ。ラドロイバーの策に乗せられた民衆を抑えられなかったのは、私の落ち度だ。あの天井の件にしても、私がいち早く感づいてさえいれば……」
救芽井の叱責に耳を貸すことなく、久水先輩は淡々とダスカリアン組を糾弾する。ジェリバン将軍は歯を食いしばり、身を震わせるダウゥ姫を庇うように立ち――その非難を真っ向から受け止めていた。
そんな将軍の様子をしばらく静観していた久水先輩は、やがて興味を失ったかのように俺に視線を戻す。
彼女の言い分は理解出来るし、俺を案じての言葉だというのは確かだろう。
しかし、それでも。ダウゥを責め立てる久水先輩に向けて、いい顔をすることは出来なかった。矢村はそんな俺と先輩を交互に見遣り、おろおろと視線を
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