第188話 義憤の行方
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姉妹の間で交わされたそのやり取りは、俺達により強烈な衝撃を与える。
「新人類の身体」と言えば、「新人類の巨鎧体」の中核となる、人間の脳を移植した電動義肢体だ。四郷を十年間に渡って幽閉し、苦しめてきた……鋼鉄の牢獄でもある。
本来ならば名前を聞くことさえ憚れるような、その存在に――「戻れ」と、鮎美先生は言ったのか。一年前の事件で、ようやく生身の身体を取り戻したばかりの彼女を。
四郷は鮎美先生の言いたかったことをかなり早い段階で察していたらしく、大して驚いた様子もなく、無表情を貫いている。
だが、スカートの裾を握る手は微かに震え、決して「戻る」という決断が生易しいものではないことを訴えていた。
「ちょっと――待ってくれ! いくらなんでも、そいつは無茶だ! せっかく一年前に生身に戻れたばっかだってのに、そんなこと!」
「あら、そう? じゃあ身体一つで戦って早々にくたばっちゃいなさい。この世界は、子供のワガママが全て通るようには出来ちゃいないのよ」
「でも、鮎美先生ッ! そこまでするぐらいなら、コンピュータが入るようにバイクのサイズを調整すれば……!」
「コンピュータによる運用を前提にしていたら、ボディそのものを一から作り直さなくてはならないわ。そんな時間の掛かる仕事を、ラドロイバーの襲撃に怯えながら行えって言いたいのかしら? 私はそれでも構わないけど、その時はあっちに『完成するまで攻撃しないで』ってお願いしなくちゃね」
俺と救芽井は口々に異議を申し立てるが、鮎美先生は皮肉たっぷりに切り返してくる。俺達がこういう反応をして来ることも、予想済みだったのだろう。
矢村も、古我知さんも、伊葉さんも、鮎美先生の提案にいい顔はしていなかった。それでも、何も言えずにいるこの状況は――四郷を「新人類の身体」に戻す以外の最善策を、誰も見出せずにいることを意味している。
恐らくは、ダスカリアンの二人も同様だろう。苦々しい顔をさらに歪めてはいるが、口は固く結ばれたまま。彼らにとっても、この話は聞き苦しいどころの騒ぎじゃないだろうに。
そして、かけがえのない四郷の親友は――組まれた腕を震わせながら顔を伏せ、沈黙を貫いていた。
「龍太君。あなたに一番欠けているのは、力でも技量でもない。自分のヤりたいことのために他人を巻き込める、図々しさよ」
「……な、に」
「これは、あなた一人が頑張ってどうにかなる話じゃないのよ。仲間だろうと恋人だろうと、必要とあらば危地へ連れて行く。その上で、結果を出す。それが出来なくては、あなたはこれ以上前には進めないのよ」
「だけどっ……!」
「こんな人道から外れた真似は許せない――って? あのね、誰が一番『人の道から逸れたことをやろうとしてる』のか、鏡に聞いて見なさいよ。そんなポンコツ同然
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