第185話 エルナ・ラドロイバーという女
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少だったのだ。
それゆえにアメリカ軍部や軍需企業は躍起になり、この技術を独占しようと救芽井エレクトロニクスに迫ったのである。この技術が万一テロリストや敵対国家の手に落ちれば、三年前のゴロマルさんや甲侍郎さんが危惧していた通り、戦闘用のパワードスーツによる殺戮が始まる危険性があるためだ。「呪詛の伝導者」という前例の存在があったことも大きい。
事実、アメリカで「救済の先駆者」としてヒーロー活動を続け、賞賛を浴びていた救芽井も、その裏では現地のマフィアや噂を聞き付けたテロリスト達、さらには他国のスパイにまで日夜狙われ続けていたのだという。一年前に日本に来たのは、そこから逃れるため、という意味合いもあったらしい。
――だが、甲侍郎さんはあくまでアメリカ軍を含む全ての武装組織を拒み、着鎧甲冑を兵器に関わらせることについて、強硬な姿勢を固め続けた。それに業を煮やした勢力が、とうとう彼の暗殺まで企てるようになった頃。
救芽井エレクトロニクスが掲げる理念や着鎧甲冑の性能に目を付けた国連が、動き出したのである。
国連は自分達の息が掛かったマスメディアを最大限に利用し、救芽井エレクトロニクスの方針や活動を徹底的に美化して全世界に発信したのである。
それまで救芽井エレクトロニクスの指針について疑問を提示していたアメリカのマスコミも、その煽りを受けて手放しに救芽井エレクトロニクスを支持する方向に「変えられて」行った。
そうした世論の変化を受け、軍部の兵器化を求める声も次第に萎縮し、現在の救芽井エレクトロニクスの地位に至るのである。
だが、別に国連は救芽井エレクトロニクスの理念に感銘を受けて、このような大々的な印象操作を行ったわけではない。
救芽井エレクトロニクスの理念とアメリカ軍の対立が、自分達にとって都合が良かった、というだけの話なのだ。
年々軍拡を続け、武力に物を言わせているアメリカの独断専攻に歯止めを掛けたかった。そんな国連にとっては、救芽井エレクトロニクスとアメリカ軍の構図は、まさに「好機」だったのである。さらに国連の舵を握る主要国の中には、自力で開発出来ない着鎧甲冑の技術に近づくべく、救芽井エレクトロニクスに恩を売る……という思惑もあった。
百数十の加盟国が結託して救芽井エレクトロニクスを支持し、その意向を全世界に発信する。そんな中で、さも平和の象徴であるかのように神格化された着鎧甲冑を、一つの大国が「兵器にしよう」と言い続けるならば――世界がどのようにそう主張する人々を見るかは、自明の理と言える。
これ以上アメリカに強力な武器を与え、さらなる増長を招くようなことがあれば、自分達の意見がさらに蔑ろにされてしまう。そう感じていた国連の幹部達が声を揃えて実行に移したのが、この牽制作戦だったのだ。
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