第185話 エルナ・ラドロイバーという女
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先生は露骨に舌打ちをする。ふと周囲を見渡すと、それが波紋のように病室に広がり、女性陣全員をより不機嫌にさせていることが分かった。
確かに、その姿に似合わぬ経歴の持ち主らしいが……俺としてはそれ以上に、「新人類の巨鎧体」の名が現れたことに驚きを隠せずにいた。
「新人類の巨鎧体」。それは、瀧上凱樹がダスカリアン王国を滅ぼした際に運用していた、十メートル以上の体躯を誇る戦闘用人型ロボット。
一年前の事件で、古我知さんに破壊されたのだが……言われてみれば確かに、鮎美先生はアレを陸軍に「作らされた」と言っていた。それを主導していたのが、この女性だというのか。
「――そんな彼女は二〇十九年に、当時中東で目撃されていたサイボーグ……凱樹に目を付けた。彼と接触したラドロイバー大佐は、『力が欲しい』という凱樹の意向に乗っかる形で、私に新兵器の話を持ち込んできたのよ。……ちょうど、十一年前のことね」
「……その人は、俺に何の用があってあんなマネを……」
「詳しい経緯は私も把握してはいないのだけれど……とにかく彼女は、強力な兵器を一秒でも早く作り出すことにこだわり続けていたわ。そして、その思想を退役する直前まで主張していたそうよ」
「――まさか」
「ええ。彼女のことだから――おそらく狙いは、着鎧甲冑の兵器化にある」
鮎美先生が呟いた一言に、周囲が瞬く間に凍り付く。他の皆は俺より先に聞き及んでいるはずだが――それでもなお、この事実による緊張は拭えないようだ。
かつて封じられたはずの思想の再現。その脅威に触れた経験を持つ救芽井と、その実行者だった古我知さんの表情が、一際険しいものになる。
「『新人類の巨鎧体』が起こした大量殺戮の責任を問われたことで、彼女の支持者は激減したわ。これまで重ねてきた功績のおかげで退役だけは免れていたのだけど、二〇二八年に創設された救芽井エレクトロニクスの方針に、真っ向から反発し続けたことがとどめとなって軍部から追放されたのよ」
「……鮎美先生に言われて、思い出したの。二年前、女性の陸軍将校に着鎧甲冑の技術を公開するよう何度も詰め寄られた、って……」
「龍太君。救芽井エレクトロニクスが掲げている『軍用禁止令』が保たれている背景は知ってる?」
「ああ、救芽井から聞いたことがあるよ。国連が結託してアメリカ軍に圧力をかけたって話だろう」
救芽井が言うように、設立当初の救芽井エレクトロニクスには今以上に敵が多かった。着鎧甲冑の技術を応用すれば、古我知さんが開発した「呪詛の伝導者」のような戦闘用パワードスーツを開発できるからだ。
超人的身体能力と防御力。そして、その開発理念に裏打ちされた圧倒的突破力。白兵戦において、これほど旨味に溢れたテクノロジーは近年では希
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