第3章 愚者共の茶番劇
第183話 歪んだ心、許されざる精神
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追いやった兄貴の、背景を語る。
……それだけの想いを持って俺を助けてくれた兄貴に対して、俺は何を考えているのだろう。なぜ、後悔することが出来ないのだろう。
いや、本当はわかりきっている。ただ、兄貴が払った犠牲を受け止めることで、犯した罪を償っている気になりたかったから、目を逸らしていただけだ。
心のうちに眠る俺の悪しき本性は、今も叫び続けている。ここで悔いてはいけないのだと。
――俺が犯した罪の結果、助かった命があるのだから、と。
「だから、先生やお友達のところに、早く行ってあげて?」
「……あぁ」
よりによって家族の前で、そんなことを考えてしまう。そんな自分が悍ましくて、赦せなかったのだろう。
いたたまれない気持ちに支配された俺は、逃げ出すように病室を後にしていた。後は母さんや親父に任せよう、なんて前向きな心境ではない――ただの、現実逃避だ。
病室を出てドアを閉めて、しばらくは無心で歩き続けた。鮎美先生や救芽井達が待っている方向じゃないことにも気づかないまま。
しばらくそうしているうちに、窓からいつもと変わらない町並みを見て――あの頃は、いつも兄貴と一緒に、何も考えることも悩むこともなく遊んでいたことを、ふと思い出す。
すると、どうしたことか。
疲弊しているわけでもないのに、俺の足腰からは力が抜け……壁により掛かるように座り込んでしまった。
「……兄ちゃん……ごめん」
自然と喉から、小さい頃の呼び名と謝罪の言葉が出てくる。
ばかな。謝れば許されるとでも思うのか。昔の頃に戻れたら、とでも思うのか。ふざけている。ふざけるな。
「ごめん、ごめん。俺、やっぱ、止まれない……。辞められないんだ、ごめんな……」
なぜ、膝を抱えている。ふざけるな。
なぜ、顔を伏せる。ふざけるな。
……なぜ、泣く。ふざけるな! 泣けばいいってもんじゃない! 泣けば許されるってもんじゃない!
「ごめんな、ごめんな……」
そんな胸の憤りなど、気にも留めていないかのように――俺の意志を無視するこの口は、延々と泣き言を漏らし続けていた。
ふざけるな……ふざけるなよっ……。
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