暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
第3章 愚者共の茶番劇
第183話 歪んだ心、許されざる精神
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 ――二〇三十年、六月。

 病室で目を覚ました時――俺はもう、十八歳になっていた。

 しかし、そんな俺を祝おうとする人は誰ひとり居なかった。……この状況を考えれば、当然かも知れない。
 それでも――いっそ空気を読まずに派手に祝ってくれてた方が、俺としては気が楽になれたかもな。

「……」
「太ぁちゃん、亮ちゃんのことはパパとママに任せて。鮎美先生に呼ばれてるんでしょう?」
「お前にできること……やるべきことは、他にあるはずだ。今は、それだけを考えなさい」

 黒いウェーブの掛かった長髪を持つ、ブラウンのスーツに身を包んだ妙齢の女性――母の一煉寺久美(いちれんじくみ)は、今まで聞いたこともないような低い声で、俺に退室を促していた。この件で一番ショックを受けたのは、他でもない母さんだろうに。
 その隣で同色のスーツを着込んでいる親父も、母さんと意見を揃えている。……理屈では、彼ら両親の言い分はきちんと理解しているつもりだ。俺はそこまで子供じゃない。

 ――しかし、一寸の躊躇もなしに踵を返せる程の、大人でもなかった。

 眼前のベッドに横たわる、包帯に全身を包まれ、顔まで隠されてしまった兄貴。ピクリとも動かないその姿は、周りの機材がなければ生死の判別すら付けられない。
 周囲に漂う消毒液の臭いと、目の前に映る光景が、俺達一家が病室で兄貴を見舞っているという現実を、逃れようのないものとしていた。

 あのあと、俺と兄貴は病院へ搬送され、ゴロマルさんが用意していた治療カプセル――メディックシステムの中へとブチ込まれた。
 特殊な培養液で満たされたカプセルの中で外傷を治療する機構であり、世界最高峰の治癒能力と救命率を誇るスグレモノだ。しかし、自然に治せば消える傷痕も後遺症として残してしまったり、異常に電力消費が激しかったり――という欠点も多く、コストの都合もあって量産化はされていない。
 ゴロマルさんは今回、予備と合わせて二台用意していた。俺達兄弟はその二つに同時にお世話になったわけだが――そのせいで松霧町は約三日間に渡り、町中が停電騒ぎになっていたらしい。急を要する事態だったとは言え、町のみんなには悪いことをしたな……。

 ……まぁ、それで全てが解決した、というわけでもないんだがな。

 俺も兄貴も、辛うじて一命は取り留めた。しかし兄貴の火傷はメディックシステムでも治し切れず、これ以上のシステムによる電力消費は住民の安全に関わるということで、こうして普通の療養による回復にシフトせざるを得なくなってしまったのだ。
 メディックシステムが完成してから四年程経つらしいが、一度の使用で完治できなかった例は今まで皆無だったらしい。

 一方で、俺は貫通していた傷そのものは塞がったものの、内臓や骨格の損傷が激しかっ
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