第182話 どこまでも、いつも通りに
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ある。兄貴が何をしでかすかをあらかじめ予感していた古我知さんと――止血剤を持った救芽井だ。
そう。鉄骨を抜かれたということは、俺の出血を止める物体が失われたことを意味する。鉄骨が抜ける瞬間、俺の胸と背中からは鮮血が噴水のように噴き出していたのだ。
それを止められるのは、出血剤を持った救芽井以外にない。
彼女は古我知さんの怒号のような叫びに応え、音さえ凌ぐような速さで純白の球体を投げつけて来た。
俺の胸にぶち当たったボールは、風船のように破裂し――白くトリモチのように粘っこい物体となって、胸と背中の傷に絡み付いていく。
その粘っこさが消え、かつて球体だった止血剤が、セメントの如く硬化された時――廃工場の外から、俺を苛んでいたもの全てが、激しく墜落する轟音が響き渡った。
ひとまずは、助かった。その僅かな安心感が、俺の意識を刈り取っていく。そして、眼前には――
――俺と同様に、俯せに倒れ込もうとしている、兄貴の姿があった。
既に着鎧は解除されているが、表情は見えない。……常軌を逸した業火に包まれ、黒焦げになった肉体しか、見えないのだ。
今すぐ、兄貴を助けたい。安否を確かめたい。なのに――身体が、動かない。どうあがいても、動かない。
こんなにも痛くて苦しいのは――きっと、傷のせいじゃ、ないんだ。
「――上に誰か居るわッ!」
そんな俺の意識を、兄貴から逸らさせるかのように、鮎美先生の叫び声が轟く。固まっていた皆が咄嗟に上を向く姿に釣られ、俺は震える片手で身体をひっくり返し、仰向けになる。
目に映るのは、暗雲と豪雨。
そして――天井の大穴から微かに覗く、金色の長髪。
……それが、この日に見た最後の光景だった。
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