第176話 暗雲の朝
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報によれば、昼からは雷まで落ちるそうだ。
あまり景気のいい眺めではないが、そんなことはいちいち気にしてはいられない。
「……行くか」
一年前から「救済の超機龍」の所有者として纏い続けてきた赤いユニフォーム。その上着を黒いTシャツの上に羽織ると、俺は階段を降りて居間へと引き返して行った。
そんな俺を出迎える矢村は、既にエプロンを脱いで出発の準備を整えている。と言っても、普段の制服姿に加えて「必勝!」と書かれたハチマキを巻いているくらいなのだが。
「龍太、さっき梢先輩から電話があったで。もうみんな、廃工場に出発しとるみたい!」
「そうか……よし、俺達もそろそろ行くか」
「ワシはここで結果が出る待つとしよう。あまり大人数で押しかけてもプレッシャーにしかなるまいて」
「俺も同意見だ。お前の勝利を信じ、ここで待つ」
一方、俺と一緒に廃工場まで行く気満々の矢村と違い、親父とゴロマルさんはここで待機するつもりでいるらしい。だが、兄貴は違うようだ。
「お二人さん、釣れないねぇ。俺は行くぜ、かわいい弟の勇姿って奴をこの目に刻むまでは、安心して不眠不休でシコれねぇからな!」
「寝ろよ!」
「寝ろや!」
すっかり昔のようなノリになっていた兄貴に、俺と矢村は同時にツッコむ。おかげで、少し気持ちが解れたような気がした。
そして、この感覚を忘れないまま決闘に臨むべく、俺と矢村は「行ってきます」と言い残し、足早に玄関へ向かう。
「……わかっておろうな、龍亮君。例え何が起ころうとも、君は着鎧してはならんぞ」
「へっ……わかってら」
その俺達に続こうとしていた兄貴が、ゴロマルさんと何か話していたが……まぁ、「ちゃんと見守れよ」とか、そういう軽い挨拶だったのだろう。
俺はゴロマルさんの言葉を受けた兄貴の背中を、一緒だけ見つめ――矢村と共に家を出る。
「さ、行くで龍太!」
「おうっ!」
「お〜い、お兄ちゃんを置いてくんじゃねぇぞ〜っ!」
そして三年前、救芽井を救うべく廃工場へ走った時と同じように。日に焼けた少女と二人で、俺はあの場所へと駆け出していた。不吉な暗雲もものともせず、おまけに兄貴も連れながら。
……だが。
「――救うだけでは、全ては救えない。壊すことを知らないあなたに、守れるものは何もない」
我が家の屋上で組まれた、二本のしなやかな黒い脚。その存在に、俺達が気づくことはなかった。
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