第176話 暗雲の朝
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らした身。あの心配性の塊のことじゃ、情が染み込んでダスカリアン王国二名の行く末を想わずにはいられなくなったのじゃろう」
「杞憂で終わらせて見せるさ、絶対に」
俺はゴロマルさんや古我知さんへの気遣いと自分自身への鼓舞を兼ねて、威勢のいい啖呵を切る。そして、無言のまま話を聞いていた親父と視線を交わし、同時に頷いて見せた。
「龍太。そろそろ、準備した方がええんやない? 十時回っとるで」
「……だな。ちょっと早いけど、着替えて来る。御馳走様、美味かったよ」
「えへへ、お粗末様」
決闘開始は正午。その瞬間は近い。
俺は乗せるものがなくなった食器を矢村に渡し、その小さな頭を優しく撫でる。セミロングの黒髪がふわりと揺れ、女の子ならではの香りが嗅覚をくすぐった。
彼女自身も自分の髪を揺らすように小さく跳ね、満面の笑みを浮かべている。失礼に当たるだろうが、しっぽを振る小犬のような姿だ。
――これはあくまで決闘であり、殺し合いなどではない。だから彼女のこの笑顔が、見納めになるはずはない。
しかし、なぜか俺は彼女の顔からなかなか目が離せずにいた。死地へ赴くわけでもないというのに、この小麦色の肌を視線から外すことに、臆病になっている自分がいるのだ。
何を恐れてるんだ、俺は。
心当たりのない恐怖心に困惑し、俺はその根拠を求めて思考を巡らせる。しかし、自分自身への問いに容易に答えられるほど、人間は便利な生き物ではない。
敢えて理屈を立てず、あてずっぽうで答えを出すならば――直感。
この戦いで自分が死ぬかも知れない、という第六感の警鐘だ。
なぜそんなものを感じているのかは見当もつかない――が、それだけ油断できない相手だということは確かだ。
今は、この恐怖を肝に命じつつ、戦うことだけを考えるようにしよう。それがいい。
「……」
「え、や、何なん? ア、アタシ、なんか変なもん、つつ、付いとる……?」
「おーおー、朝っぱらから見つめ合っちゃって。いってらっしゃいのキスでも期待してんのか?」
「ほっほっほ、見せ付けてくれるのぅ。樋稟がこの場に居たら、さぞかし賑やかになってたじゃろうな」
「――ゴホン。龍太、決闘前で不安になる気持ちはわかるが、いついかなる場合であっても節度を忘れてはならんぞ」
……そんな俺の思案も知らずに茶化すんじゃないよ、全く。
「ちょ、なんだよもう! と、とにかく着替えて来るっ!」
俺は矢村との関係に突っ込まれたことで思わず動転してしまい、慌てて居間を飛び出してしまう。自室に上がって寝間着を脱ぎ捨ててからも動悸は続き、落ち着く頃には着替えはほとんど完了していた。
その時の窓から見える景色は思わしいものではなく、曇り空が町を覆わんと広がっていた。天気予
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